廊下を通り抜け、階段を上がり、二人が辿り着いたのは、一つの部屋の前。叶華は静かに、襖の引き手に手を伸ばした。

「此処に……入るのかい?」
「はい。こちらが廓の中で1番の見つからない場所ですから」
「でも……楼主に、怒られはしないかい?」
「無断で廓の庭にずっと隠れていた方のお言葉には、聞こえませんが?」
「あはは、確かに。なかなかに手厳しいね」
「…心配は要りません。今なら…。この時間なら、きっと起きている者は、誰もいないと思いますから」

音を立てないように細心の注意を払い、叶華は目の前の戸を開ける。

「さぁ、お入り下さい」
「あぁ、ありがとう」

部屋の中へ男を招き入れると、辺りに誰も居ないことを確認してから、ゆっくりと襖を閉めた。
案内したのは、3階の奥にある、使われなくなった寝具等を納めた部屋。
水揚げを未だ済ませていない叶華には、自分の部屋というものがない。一本立ちすれば、直ぐにでも自室を与えられるのだが…。
自ら誘ったとは言え、見ず知らずの男を、流石に新造の集まる大部屋に連れていく訳にはいかなかった。そこで思い付いたのが、この部屋だった。
禿の頃、同年代の者たちと此処へやって来て、遊んでいた。そして、大人に叱られた日は、此処に隠れて、一人泣いていた。
だが、そんな仲が良かった同胞たちは、水揚げを済ませ立派に一本立ちをすると、このような所には、一切寄り付かなくなってしまった。

幸い、この部屋には、必要なものが一通り揃っていた。
叶華は行灯に明かりを点し、近くにあった火鉢に火を入れた。
暫くすれば、室内が明るくなり、仄かに暖かくなる。

叶華は男に座布団を勧め、棚から薬箱を取り出すと、そっと畳の上へと置いた。

「シャツを脱いで下さいますか?」
「え?」

唐突な申し出に、男は怪訝そうな表情で叶華を見る。

「傷の手当てをさせて頂きますので」
「あぁ、いいよ。このまま放っておけば、直に治るだろうし」
「何言ってるんですっ。万が一、傷が化膿したらどうするんですか?」
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟ではありませんっ。こういった怪我を甘く見てはいけませんよ。とにかく、シャツを脱いで下さいっ」

叶華の必死さに根負けした男は、渋々といった様子で、身に纏っていたシャツを脱ぎ出す。
やがて叶華の目の前に現れたのは、しなやかで均整のとれた、肢体。肩幅も、胸も、服の上から見るよりもずっと広く逞しくて…、思わず胸が高鳴ってしまうほどだった。


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