桜を思わせるような、薄紅色に染まった髪。それも厭味ではなく、彼の雰囲気にピタリと合っているから不思議だった。それから、スラリと伸びた長い手足。身体も細身だが、決して華奢という訳でもなく…。
このような非の打ち所がないほどの美形に、叶華は未だ嘗て出会ったことが無かった。
なんて綺麗な方なのだろう。きっとこの容姿なのだから、吉原を出た外の世界でも誰もが彼を放ってはおかないのだろうな、叶華はそんなことを頭の片隅で思う。

しかし、そのような見目麗しい男が、こんな時間の廓の庭に、何の用があるというのだろうか?傾城のお客かもしれないと一度は思ったのだが、時間的なことを考えれば可能性は低かった。所謂、今は丑三つ時。こんな夜更けに起きてるお客も娼妓も、そうそうは居るものではない。
ならば、一体…?

ちらりと男に視線を滑らせると、彼が身に付けているシャツの一部が破れていることに気付いた。しかもよくよく見れば、紅く血が滲んでいるではないか。

「……あの」

勇気を振り絞って、目の前の男に尋ねようと試みる。怪我をしているのではないかということを。それから、どうして、こんなところに居るのかということを。
それを叶華が口にしようとした時だった、枯れ枝を踏み締めたような音がしたのは。

「…っ!?」

不意に男に掌で口を塞がれ、そのまま、大きな柱の物陰まで連れて行かれた。
突然の出来事に驚きを隠せない叶華に向かって、男はしぃと人差し指を立てて唇に当てる。
その直後、庭の奥から男たちの騒ぐ声が聞こえてきた。

「おい、居たか?」
「いや、こっちには居ない」
「…クソッ、何処に行きやがった。まだ近くに居るはずだ。とにかく、庭の中を虱潰しに捜せ。必ず、ヤツを見つけ出すんだっ」


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