25


東雲が桃色に染まる頃、あの日と同じように、二人して見世を出た。叶華は少しふらつきながら、大門までの道を歩く。
時間が時間であるためか、自分と同じように客を送る娼妓の姿を、途中、ちらほら見掛けた。

「あ…っ」

不意によろめいて、思わず清水の腕に縋り付いてしまった。叶華は慌てて伸ばした手を放す。

「す、すみません、僕…」
「大丈夫かい?」
「はい。少しよろめいてしまって」
「君には随分と無理をさせてしまったからね。見送りは此処までで構わないから」

清水は言う。
だから、早く帰って、身体を休ませなさい、と。
それに対し、叶華は首を左右に振った。

「…いえ、僕は大丈夫ですから。大門まで送らせて下さい」
「しかし」
「そうしないと、僕が悪く言われてしまいます」

床入りをした客が帰る際には、きちんと大門までお送りするように、廓から言われている。しかし、叶華にとってそんなことはホンの建前に過ぎなかった。
本音としては、時間が許す限り、清水と一緒に居たかったのだ。だから、この身体を苛む鈍痛も、眠気にも、幾らだって耐えられるような気がした。

「…そうだったね。俄雨は一度決めたら頑として譲らない、頑なな性格をしていたね。それじゃあ、あと少しだけ付き合って貰うとしようかな。その代わり…」

言って、清水はより叶華の近くまで寄ると、その腰にスルリと腕を回してくる。

「大門までは、この体勢で歩いて貰うよ」
「…はい」

清水に身体を労って貰いながら、そして、他愛のない会話を交わしながら、残り僅かな距離を歩いた。
時は無情にも過ぎいき、あっという間に、大門へと差し掛かる。

「それじゃ、此処で」
「…はい」
「一人で見世まで帰れるかい?」
「えぇ、大丈夫です。休みながら帰りますから」
「そう」

叶華の言葉に、清水は何処か安堵したような表情を浮かべた。

「……また、来て下さいね」
「あぁ、必ずまた来るよ」
「…お気を付けて」
「俄雨も、気を付けて帰るんだよ」
「はい」

最後まで優しい言葉を掛けてくれる清水に、精一杯の笑みを浮かべて頷く。
そして大門を出て、小さくなっていく彼の背中が完全に見えなくなるまで見送った後、漸く叶華もゆっくりと踵を返したのだった。


- 25 -

戻る




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -