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「…そうか、そうだったね。あの日、私は君に名前を聞いたきり、自分は名乗りもしなかった。それじゃ、私に手紙など書けるはずもない。おかしなことを言って、済まなかった」
「…いえ」
「だけど、これからは…」

清水はふわり微笑むと、叶華の腕を掴み、柔らかな褥の上へと、その肢体を静かに押し倒した。叶華の黒くしなやかな髪が、はらり敷布に広がる。

「私の名前が清水雷光だと分かったのだから、遠慮無く手紙を書いてくれるのだろ?」

互いの鼻先が触れるほどの至近距離で告げられ、一際大きく、鼓動が跳ねた。男はそのまま、ゆっくりと唇を塞いでくる。最初は触れるだけ。それから啄むような、接吻の連続。徐々に濃く、深くと、叶華の唇を貪ってきた。
いつの間にか口腔へと侵入してきた清水の舌先は、逃げる叶華の舌を搦め捕り、優しく、けれど確実に蹂躙していく。頭の芯が甘くじんわりと痺れゆく感覚を、叶華は覚えた。
施される接吻に拙く応じている間に、男の手が帯へと伸びてくる。器用に結び目を解かれ、色鮮やかな打ち掛けが、微かな衣擦れと共に褥へと沈む。
着物と朱い襦袢の裾を割られ、清水の冷えた手の平が肌に触れた瞬間、叶華は思わず目の前にあった胸を押し返してしまっていた。

「…待って、……待って下さい、雷光様」
「どうかしたかい?」

手を止めてこちらを見つめてきた男の問い掛けに、叶華はただ何でもないのだと、ただ首を横に振る。

「…もしかして、怖いのかい?」
「……っ」

男の言葉は、正に図星だった。
清水に抱かれることは、決して嫌ではないのだ。叶華にとっては、寧ろ、喜ばしいこと。それなのに、気持ちとは裏腹にこの身は体験したことのない未知なる行為に、震えてしまう。
そんな彼の心情を察したのか、清水は宥めるように、叶華の額にそっと口づけを落としてきた。

「…俄雨、安心おし。私は君が嫌がることはするつもりはないから。これ以上は無理だと感じたら、その時は遠慮なく私に言いなさい。分かったね?」

清水の柔らかな眼差しと心遣いに、胸が苦しくなる。

「…はい、雷光様」

清水は頷く叶華に微笑みを向けると、今一度、唇を寄せてきた。強く四肢を抱き竦められ、叶華は怖ず怖ずと男の背中に自らの意志で腕を回す。
そしてそのまま、未知なる快楽へと身を委ねていった。


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