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「…あの」
「うん?」
「あちらを向いてくれませんか?」
「それは何故だい?」
「だって…」

一つの布団では、二人で横になるには少しばかり狭すぎる。しかも、男と向かい合う状態になっているから、叶華としては気が気じゃ無いのだ。
至近距離に男のこんな綺麗な顔があったら、穏やかに眠れるはずもない。
無論、夜明け前に起こすと自ら宣言したのだから、熟睡するつもりもないのだけれど…。

「つまりそれは、私と向かい合わせは恥ずかしいから、反対側を向いて欲しいということ?」
「…はい」
「申し訳ないが、それは聞けない相談だな」
「どうしてですか?」
「それでは、君と添い寝する意味合いが無くなってしまうからね」

折角、君と同じ布団で寝るのだから、向かい合わせの形でなければ、その醍醐味が味わえないだろ、と男は悪戯っぽい表情で更に続けてくる。
そう言われては、叶華は呆気にとられる他なかった。

「…おや?敷布団から君の肩が少し出ているね。それじゃ、寒いだろうに。ほら、もっと私の傍に寄りなさい」

更にあろうことか、腰の辺りに腕を回され、身体ごと境界線間際まで引き寄せられた。
男の胸元に顔を埋める体勢に、叶華は堪らず動揺してしまう。

「これで二人とも寒くないね」

と、にこり微笑み男が言う。
確かに男の言う通り、先程以上に寒さは感じなくなったのだが…。

「これではおちおち、眠れそうもございません」
「そうなのかい?しかし、私だけ眠るのも申し訳ないし、だからといって、君を離したくもない。このまま時間まで、何か話でもしようか?」
「…いえ、僕のことはどうかお気になさらず、貴方はお休み下さいませ。休める時に休まねば、治る傷も治りませんよ?」
「そういうものかな?」
「そういうものです」

叶華の相変わらずの頑なさに、男は苦笑いを浮かべると、渋々といった様子で彼の申し出を承諾する。

「……では、君の言う通りにさせて頂こうかな」
「ご安心下さい。先程も申しました通り、夜明け前には、ちゃんと僕が起こしますから」
「あぁ、宜しく頼むよ。…お休み、俄雨」

様々なところを逃げ回り、余程疲れてしまったのだろうか。そう言うなり、男は眠りへと入っていく。

「…おやすみなさい」

穏やかな寝息と規則正しい心音を傍で感じつつ、叶華もしばし瞳を閉じる。このひと時だけはどうか許されますように、と密かに心で祈りながら、男の温もりにその身を委ねたのだった。



東の空が白み始めた頃、叶華は寝静まった廓から男をこっそりと連れだし、大門まで送って行った。


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