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「どうして?寧ろ私は、至極嬉しかったのだけれど…」
「え?」
思いも寄らぬ言葉に、思わず男を見返してしまう。
「君の初めてをひとつ貰うことが出来たからね」
「初めて…ですか?」
「そうだよ。だって私は、君の初めての接吻相手、ということになるのだろう?」
「…っ」
発した一言に、再び、かぁっと、一瞬にして顔が熱くなった。
「君のその反応は、一々、可愛いね。そのような顔を見せられると、接吻以上のこともこのまま奪いたくなってしまう」
「だ、駄目です、それは…っ」
「あはは、冗談だよ。そんなに怯えないでおくれ」
「冗談…」
「君は本当、からかい甲斐があるな」
「から…、っもう、性格の悪い方ですね、貴方という人は」
ぷくりと膨れた叶華を見て、男は悪戯っぽく笑った。
それから暫くして、男は立ち上がり幾重にも積み重ねられた布団の山に手を掛ける。
何を?と尋ねる叶華に、男は一言だけ、寝る準備をしようと思ってね、と返してきた。
「そのようなことは、僕がやりますから」
慌てて制しようとする叶華を振り切り、男は手慣れた様子で一組の布団を、あっという間に敷き終わる。
「さぁ、俄雨…」
そして、その上に徐に横になると、掛け布を中ほどまで捲り上げ、ぽんぽんと敷布を軽く叩いた。
どうやら、こちらに来て一緒に寝よう、という意味らしい。
「いえ、僕は…」
首を左右に振る叶華に、再度、敷布を叩く。
「先刻の私の戯れ言を気にしているのかい?ならば、私は何もしないと約束しよう。君が困るようなことは、決してしないとね」
「……でも」
「私も独りでこの中で寝ても淋しいだけだ。君もそこにずっと居たら風邪をひいてしまうよ。二人で共に寝たら、互いの体温で温め合うことが出来、寒い思いも淋しい思いもをしなくて済む。だからね、俄雨」
――こちらに、おいで…。
と、柔らかな声音で囁かれてしまったら、もう一溜まりも無かった。
まるで呪文のように胸に響き、逆らうことなんて出来ない。
「………」
発せられた声に導かれるが如く、そろりとその場から離れると、叶華は躊躇いがちに男の居る褥に、己の肢体を滑り込ませた。
「ほら、温かいだろ?」
男の問いに、叶華はこくりと小さく頷いてみるも、何処か落ち着かない。
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