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今度は先程のような、そっと触れるだけのものとは違う。
戦(おのの)き反射的に後退る四肢を、男の二の腕にしっかりと捕まえられ、動きを封じられてしまった。
僅かに震える唇を、器用に割って入ってきた舌先に、自分のそれを搦め捕られれば、頭の芯がジンと痺れた。

「ん、ぁ……んん…っ」

多少強引だが、何処か甘さを孕んだ口づけ。不意に後頭部を押さえられ、行為をより深くされた。

「んぅ……んっ…は、…んん」

呼吸さえ奪うような濃厚な接吻に、叶華は男の胸元を叩いて、どうにか苦しさを訴えようとする。しかし訊く耳を持たないといった風情で狂おしいくらいに口腔を貪られ、あっという間に全身から力が抜けていった。

「…ぁっ…んん…っ…」

ひとしきり犯されてから、最後に下唇を軽く食まれ、名残惜しそうに男の唇が離れていく。
軽い酸欠状態に陥り、頭の中がぼんやり霞んでいるかのようだ。
口づけの余韻からなかなか抜け出せないでいたら、至近距離で低く甘い声音が響いた。

「…俄雨、大丈夫かい?」
「……え、えぇ。…わぁ…っ」

奇声めいた声を発しながら叶華が慌ててその塲から離れたのは、つい先程まで自分が耽っていた行為が、走馬灯のように鮮明に脳裏を過ぎったからだ。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、首や耳まで熱くなる。
間違いなく今の自分は、熟れた林檎みたいに赤く情けない顔をしている――、そう思うと、何だか至極居たたまれなくなった。

「…すまない、少し調子に乗り過ぎてしまったようだ」
「いえ…っ」

気恥ずかしさから顔を上げられず伏せたまま、左右に首を振る。
新造の身で、何ということをしてしまったのかと思った。たとえそれが、不意打ちであったにしても、どうにかして防ぐべきだった、と。
けれど、そんな多少の後ろめたさは覚えても、決して嫌な気分ではなかったのだ、不思議なことに。
寧ろこの身は、男によって齎された感覚を喜んでいるかのようだった。

「接吻をするのは初めて…?」
「……はい」

男の問い掛けに、叶華は躊躇いがちに頷く。

「近々一本立ちをする身だというのに、接吻が初めてなど、とてもお恥ずかしい話なのですが…」

このような廓では、どんな客でも相手に出来るようにと、様々な教養を叩き込まれる。娼妓としての立ち振る舞いから、着物の着付け、そして、客の喜ばせ方まで。接吻ひとつにしても、どうやったら相手がより喜ぶのかを、一から仕込まれるのだ。
しかし、叶華が実際こうやって人相手に接吻をするのは、今夜が初めてだった。


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