まるで以心伝心2
「安心おし、俄雨。外からは私たちは見えないから。此処はマンションの最上階で、外は雨。そんな状況下で、誰が私たちを気にするという?」
「…しかし」
「それでもまだ気に掛かると言うならば、もっと私の近くに来ればいい」
「うわっ」
グイッと身体を引き寄せられ、僕と雷光さんの境界線が薄くなる。
「ほら、これで更に外からは見えなくなった」
「…っ」
「…おや?お前の心拍、やけに早くないかい?」
前に回された腕がいつの間にか、僕の胸の上に置かれていて。更に早鐘を打つ鼓動を悟られれば、たちまち僕は羞恥の念に駆られる。
「だ、誰のせいだと思っているんですかっ?」
「誰のせいだろうね」
「あ、貴方ですよ。貴方っ」
「私?」
「雷光さんが、い、いきなり僕に、だ、抱き着いてくるから…っ」
しどろもどろになりながら答えれば、再び小さく笑う気配。
「お前は本当に可愛いね。思わず、食べてしまいたくなる」
「へ?」
「ふふ、ただの戯れ言だよ。そんな間の抜けた顔をしなくても。……なぁ、俄雨。お前は雨は好きかい?」
「え?」
唐突の問い掛けに僅かばかり戸惑っていると、直ぐさま、私は好きだよ、という言葉が返ってきた。
「篭るような音、雨に揺れる葉、湿った土の匂い…、どれも雨の日にしか味わえない光景だ。それに雨の日は、大切な人と過ごせる数少ない安らぎの日でもあり、その人をより近くに感じることが出来る日だからね。私はお前と二人だけ過ごせる時を、大事にしたいのだよ」
耳元で甘やかな台詞を囁かれ、ばばっ、と、顔が赤くなったのが自分でも分かった。
「…少しクサかったかい?」
「いえ、そのようなことは…」
そう言って、首を左右に振る。
なんだ、雷光さんも僕と同じようなことを思っていたんだ。
「ならば、私の我が儘をきいてくれないか?もう少しだけ、このままで居させて欲しいんだ」
「……もう少しだけなら」
承諾の意を示せば、より近くに手繰り寄せられ、強く、深く抱きしめられた。
その手が、腕が、指が、僕の身体を包み込み、体温が全身に伝わる。
背中越しに鼓動。少し遅めだけれど、確かに僕を感じて高鳴っている、心のリズム。
雷光さんは雨が好きだと言った。
雨の日に垣間見える、その光景が好きなんだ、と。
そして何より、大切な人と共に過ごせる雨の日が好きだ、と。
そう、この僕と同じように――。
それって、何だか以心伝心みたいで、こそばゆくて、至極嬉しい…。
(20090313)
しろ太さま、くろ太さまに相互リクとして捧げました。
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