SCANDAL7/8
「雷光、ちょっといいか?」
あれから数日後の昼下がり。
事務所のホワイトボードの前で、俄雨と共に念入りにスケジュールを確認している雷光に声を掛けた。
「どうしたのですか、雪見先輩。珍しくそんな、神妙な表情をされて…」
僅かばかり訝しげに小首を傾げる、雷光。
「お前に話がある。………スケジュールチェックが終わったら、俺の部屋まで来てくれるか?」
「私に話ですか?それなら、此処でして下さっても構いませんが…」
「…いや、此処じゃ差し支える内容なんだよ」
雷光に近寄って、小さな声で二の句を紡ぐ。
「他の奴らに聞かれると、ちょっとまずいんだわ」
「え?」
俺の発した言葉に、若干、雷光の表情が強張った。妙に勘の働く、こいつのことだ。もしかしたら、何かを感じ取ったのかもしれない。
「先輩、それはどういう…」
「とにかく、俺は部屋で待ってるから、俄雨も連れて一緒に来いよ。いいな?」
否を言わせない俺の口ぶりに、雷光は、分かりました、とだけ言って、こちらからの申し出を渋々といった風情で了承した。
「…それで、雪見先輩」
それから、数分後。
俺の言い付け通り、俄雨を引き連れて社長室までやって来た雷光は、中に踏み入るなり、開口一番に言った。
「私に話というのは?」
回りくどい言い方は、余り好きではないし、俺の性には合わない。だから、こういう時は、ストレートにはっきりと…。
「…雷光。お前に、単刀直入に訊くが。……お前、俄雨と付き合ってるのか?」
「え…っ?」
「誰がそんなことを…」
二人分の、目を見張った表情が、俺を捕らえる。
「たとえそうでも、別に俺はお前らの関係を咎めるつもりはない。ただ、お前たち本人の口から真実を聞きたいだけだなんだ。…で、どうなんだ。付き合っているのか?」
「……」
俺の問い掛けに、押し黙る雷光と俄雨。
しばしの沈黙の後、ゆっくりと。でもはっきりとした口調で雷光が、…はい、とだけ答えた。
「ら、雷光さんっ」
慌てふためく俄雨を、雷光が優しく制する。
「良いんだよ、俄雨。先輩には何れ、私の口から話をしなければ、と思っていたところだったんだから」
「…でも」
再び、雷光が俄雨を諭し…。こちらに向き直ると、あいつは俺を真っ直ぐ見つめてくる。その視線を決して逸らさぬまま、静かに自らの想いを告げる。
「先輩のお察しの通り、私たちは付き合ってます。…ですが、真剣です。私は俄雨を、心から愛しております。寧ろ、この子がずっと私の側にいてくれたからこそ、今日の自分があると言っても、過言ではありません。俄雨が居たからこそ、この業界での仕事に、やる気を見出すことが出来たんです」
「…それで、俄雨は。お前は、どうなんだ?」
「僕は……」
俯いたまま、拳を軽く握り締める俄雨。暫くして、意を決しかのような真剣な眼差しで俺を見据え、口を開いた。
「…僕も雷光さんを大切に思ってます。マネージャーとしてはまだまだ半人前ですが、ずっとずっと支えていきたい――心からそう思っています」
「……そうか」
言葉の端々から、真っ直ぐな眼差しから。互いを思いやる深い気持ちが、嫌というほどこの胸に伝わってきた。
二人のどちらかが、関係をごまかすようなことがあれば、実力行使に打って出ようか、なんて考えも僅かばかりあったりしたのだが…。そんな必要、全く無かったな。
最早、固い絆で結ばれた二人を引き裂くようなことをすれば、罰が当たりそうだ。
数穂が思い描いたような展開になって、俺としては少々悔しいが、まぁ、仕方がねェよな、これじゃ。
「…仕事に決して、支障をきたさないこと」
「…雪見先輩?」
俺の言葉に、雷光は怪訝そうな表情を浮かべる。
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