SCANDAL6/8


「本当ですか?」
「…あぁ」

俺が頷けば、ぱあ、と数穂の表情が一気に明るくなる。

「勿論、百歩譲ってだけどな」

勿論、事務所の為でもあるのだが…。
改めて雷光のことを顧みた時、数穂が言っていることも一理あると思ったのだ。
俄雨の存在が、雷光を人として、役者として成長させているならば、その存在を俺が無理矢理奪うのは罪だと気付いた。
たとえ、マスコミに叩かれる日が訪れたとしても、あいつならば…。雷光なら、苦境を跳ね返すことの出来る、くだらぬスキャンダルなどには負けない、役者になれるはずだ、と。
雷光には、そんな伸びしろがある。何よりあいつの持つ才能を、俺は信じているから。

「…言っとくが、お前の言葉全てを、受け入れた訳じゃねェからな。あいつらを認める代わりに、条件を付けさせて貰うぞ」
「それでもいいっすよ。二人のことを、兄さんが許してくれるなら」

良かった、嬉しそうに言って、数穂は立ち上がった。立ち上がり際、テーブルの端に置かれたレシートを取る。

「今日は、私が払いますから」
「お前の奢り?へェ、珍しいこともあるもんだな」

どうせ、事務所の経費から落とすのだろう、などと思ったが(数穂は昔からちゃっかりしたところがあるからな)、それは敢えて言わないでおく。

「私、それそろ事務所に戻りますね」
「待て、数穂。今、事務所に戻るのは…」

ふと先程の光景が蘇り、不安が俺を脳裏を過ぎった。そんな俺の心中を数穂が読み取ったかのように言う。

「あぁ、それならもう心配要らないと思いますよ?」
「分かるのか?」
「まぁ、伊達に雷光くんたちを見守ってきていませんから。…兄さんは、もう少し、ゆっくりしていって下さいね。それじゃ」

数穂は踵を返して、レジで会計を済ませると、そのまま店を出て行こうとする。

「数穂」

透かさず立ち上がり、不意にあいつを呼び止める。

「雷光たちには、直接、俺から伝える。だから、お前は余計なことすンじゃねェぞ」
「了〜解」

数穂は振り向きもせず、ひらひらと手を振って、今度は本当に店を後にした。

その場に残された俺は、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干し、また新たに二杯目を注文する。
運ばれてきたコーヒーで心身を潤い温めつつ、雷光と俄雨に何と告げようかと考える。
時折、やはりあいつらを認めるのは…、と思考が逆戻りしたり…。
ダラダラと考えるのは至極苦手なくせに、俺はそれから2時間程、その店に居座ったのだった。


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