SCANDAL5/8


「兄さんは本当、何も分かってないんですね」
「はぁ?何もって、なんだよ」
「今は歌って踊れるアイドルだって、恋をする時代なんですよ。はっきり言って、古すぎです、思考が」
「ンなこと…っ」

ンなこと、この俺だって分かっているさ。
毎日のようにワイドショーを賑わせているのは、その手の話題だからな。
だが、それが自分の事務所に所属しているタレントとなれば、また話は別だ。

「言っただろ、あいつらの恋愛は特殊な上、雷光も役者としてはまだ駆け出しで…」
「言葉を返すようですが、兄さん、さっき私に言ったじゃないっすか。何があっても、タレントを全力で守るのが社長の責務だって。所属タレントの恋路を守ってあげるのも、社長の務めじゃないっすか?」
「揚げ足取るンじゃねェ。俺はそういう意味で言った訳じゃなくてだな、」
「タレントを守る上では、一緒でしょ?…あ、そうか。兄さんは嘘を吐いたんですね、私に」
「何でそうなるんだよっ」
「酷いです。僅かばかりでも貴方を尊敬していた私がバカでした…。はっきり言って幻滅しました、」

言って、白々しい泣きマネなんかをしやがる。
他人(ヒト)の話を最後まで訊けって言うんだ、バカ数穂が…っ。

「あ、でも…」

泣き真似をしていたと思ったら、一言言って、数穂は突然、むくりと顔を上げた。
でも――その先が気になって(いや、正確には怖くなって)、思わず尋ねてしまう。

「でも、…何だよ」
「もしもですよ。もしも、私たちが頭ごなしに二人の恋を引き裂いたら、雷光君は、以前の雷光君に戻ってしまうんじゃないかと思って」
「……っ」

自然、ぴくり、と俺の口端が引き攣った。

「心の拠り所である俄雨君を今失ったら、雷光君はやる気も覇気も無くなるでしょうね…」
「こら、数穂。そんな怖ェ話、冗談でもするもんじゃねェぞ」

想像しただけで、末恐ろしい。

「いえ、私は冗談を言ってるつもりはありません。これは実際に起こり得る話なんですよ、兄さん」
「………」

おいおい、それは困る。マジでに困る。社長としても、事務所としても、存外困ってしまう状況だ。
スポンサーも、仕事のオファーも、漸く軌道に乗り始めたっていうのに、今までの努力が水の泡に成り兼ねないとでもいうのか。

「最悪、雷光君自身がこの業界自体を辞めてしまうかも…」
「っ!?」

言い放たれた言葉に、俺は少なからず衝撃を受け、絶句する。

「駆け出しとは言え、うちの事務所の稼ぎ頭は雷光君でしたよね?今、彼を失ったら、弱小事務所の今後は、どうなってしまうんでしょうね、兄さん」
「……お前、遠回しに俺を脅してるだろ?」
「まさか」

数穂の態度は、火を見るより明らかで。首を左右に振った後で、俺に向けられた、そのわざとらしいほどの笑顔は、完璧、俺を脅しているようにしか見えなかった。

「…で、お前はこの俺にどうしろって?」
「兄さんだって、既に分かってるクセに」
「……まさか、あいつらの交際を認めろ、とか言うんじゃねェだろうな?」
「御名答。流石、兄さんっすね。察しがお早いことで」
「………」

あぁ、やっぱりか。
予想通りの返答に、ゔ〜、と小さく唸りながら、腕を組んで暫く思考を巡らす。
考えて、考えて、考え倦ねて、漸く俺が導き出した答えは――。

「…分かった。しょうがねェが、認めてやるよ、あいつらのこと」

雷光たちの交際を容認する答えだった。


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