SCANDAL4/8


「大体、タレントが担当マネージャーとデキてるなんてマスコミなんぞに知られてみろ。うちのようなしがない事務所なんかな、あっという間に潰されちまうだろうよ」

それだけタレントのスキャンダルは、事務所にとっても、そのタレントにとっても致命傷になり兼ねないのだ。

「だからって、そんな横暴なこと…」
「横暴だろうがなんだろうが、この際関係ないんだよ。俺はこの事務所の、TRUSTの社長だ。社長はタレントを全力で守る責務がある、何があってもだ」

たとえその選択が、二人を傷付けることになっても。

「タレントは事務所にとって、大切な商品だ。長年、俺の傍らで副社長をやってるクセに、お前はそんなことも分からねェのか」
「………」

ガシャン。
数穂は手に持っていたティーカップを乱暴にソーサーに戻すと、こちらを睨んできた。
こいつのこんな表情、久しぶりに見た気がする。
凄みのある視線に、俺は僅かばかりたじろいでしまう。

「な、なんだよ。その眼は」
「分かってないのは、兄さんの方っすよ」
「はぁ?俺の方だと?」
「そうです。兄さんは雷光君のこと、全然分かってない」

……雷光のこと、だと?

「あいつの何を分かってないと言うんだ。俺は雷光が一人前の役者になれるようにと、ここまで育ててきたんだぞ」
「確かに、“清水雷光”という名の原石を見つけて、役者として育ててきたのは、兄さんかもしれない。でも、今日の彼があるのは、少なからず、マネージャーである俄雨君のお陰じゃないんすか?」
「俄雨のお陰…」
「思い出してもみて下さい。出会った当初の頃の雷光君のこと…」

あの頃。
あの頃の雷光は、結構な問題児だった。
問題児(大体あいつは、児というような年齢じゃねェが)――暴力を振るうとかそういう意味合いではなく、全てにおいてやる気のないという意味で、問題だった。
雷光は遅刻の常習犯で、ドタキャンもしばしば…。
担当マネージャーに、無理難題を吹っ掛けて、困らすことも多々あった。
そのようなことが度重なり、あいつに付いたマネージャーは皆、手に負えないと言って、次々と辞めていく始末。
俺自身も迷惑をかけた会社に対し、謝罪に回る日々が続いた。

そんな時だった。
この事務所に新人マネージャーとして、俄雨が加わったのは。

「昔に比べると、雷光君、最近随分と変わったように思いませんか?仕事に対してかなり前向きになりましたし、以前みたいな遅刻も、ドタキャンもすっかり無くなったし。…それに、スタッフに対する人当たりもソフトになったって、皆、口を揃えて言ってますよ」
「……」
「これ全て、俄雨君が彼のマネージャーになってからなんですよ。この意味、分かりますか?」
「…俄雨を雷光の専属マネージャーにしてから、あいつにとっても、事務所にとっても全て良い方に転んでるとでも、言いたいのか、お前は」
「そうです」

俺を真っ直ぐ見据えて、数穂はきっぱりと言い切った。

「今の雷光君にとって俄雨君の存在は、寧ろ、原動力に近い。彼にとって決してマイナスには働いてないと、私は断言出来ますよ」
「見上げた自信だな、数穂」
「まぁ、私の方が兄さんよりももっと近くで、彼らを見てきましたから」

数穂はカップに残っていた紅茶を飲み干す。

「…そんな二人を、兄さんは引き裂くというんですか?」
「あぁ、そうだ。タレントの恋はタブー中のタブーだからな」

そう告げると、数穂はあからさまに嘆息を漏らした。


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