SCANDAL3/8


「和穂。お前、雷光たちのこと、気付いてたのか?」
「うん、まぁ、何と無くですけど…」
「…なんだって!何時からだ、何時からあいつらは――」

勢い込んで問い詰めようとしたが、再び、和穂に制されてしまう。

「シー…ッ。こんな場所で大声で話せる内容じゃないんで、場所を変えて話をしましょう。構わないっすよね?兄さん」
「…あぁ」

和穂に半ば引っ張られるようにして、俺は事務所を後にして…。
それから数分後、俺達は近所の喫茶店で向き合って座っていた。

「それで…」

オーダーをすませて、水を一口だけ喉に流し込んでから、俺は今一度訊きたいことを一気に口にする。

「何時からなんだ?あいつらは何時からそういう関係になってた?お前以外にそれを知ってるヤツは居るのか?それから…」
「兄さん、落ち着いて。そんな矢継ぎ早に質問されたら、何から答えたらいいか、分からなくなってしまいますよ」
「…え、あぁ、済まない」

どうもこういうのには慣れていないせいか、気が急いてしまう。
俺は気持ちを落ち着かせるように目を閉じ、一呼吸置いから、改めて、言葉を紡いだ。

「…で、何時からなんだ、あいつらが付き合い出したのは」
「う〜ん、正確にこの日から、っていうのは私にも分からないんすが…。私が気付いたのは、大体、三ヶ月前くらいっすね。もしかしたら、もっと前からそういう関係だったのかもしれないけど…」
「………」

そんな前から…かよ。

「何でそんな大事なことを、俺に伝えなかったんだよ?」
「兄さんも気付いてたと思ったんですよ。分かっていた上で、二人を見て見ぬ振りをしてたのかなって」
「だからって、お前なぁ…」
「本当に、全然これっぽっちも、気付いてなかったんすか?あの二人のこと」
「それは…――」

指摘されれば、そのような兆候は何かしらあったような気がしてきてしまう。

例えば、マネージャーの俄雨が雷光のことをずっと「清水さん」と呼んでいたのが、いつの間にか「雷光さん」と呼ぶようになったこと。
例えば、マネージャーを俄雨に変更してから、雷光が仕事に対してやる気を少しずつ見せるようになったこと。
例えば、雷光が他者に向ける眼差しが今まで以上に柔らかくなったこと。

例えば…――。

全て些細なことだと思い込み、別段気に留めはいなかったのだが…。こうやって改めて考え直してみれば、あの二人の言動には何処かしらに艶を含んでいたように思う。
今更ながら…。

それにしたって、この状況はタレントを預かる者としては失態中の失態だ。
自分の事務所内での色恋沙汰に気付かないなんて、鈍過ぎる自分自身に、ほとほと反吐が出る。

「…それで、お前の他にあいつらの関係を知ってる者は?」
「恐らくは、居ないと思いますけど」
「…そうか」

つまりそれは、あいつらの関係を知っているのは、現在の時点では俺と和穂だけということになる。
ならば…。
運ばれてきたコーヒーを、俺は静かに口に含む。
ならば、まだ打つ手はあるということか…。

「…もしかして兄さん、二人を別れさせるつもりじゃ」
「この場合、当然だろ。こんなことが許されるか」
「それは雷光くんたちが同性同士だから?」
「はん?」
「兄さんは同性愛なんて、気持ち悪いとか思ってる訳?」
「違ェよ。…んなこと、思っちゃいない」

現に身近に同性同士で付き合っているヤツが何人か存在する。だからなのかは分からないが、俺自身、嫌悪感は僅かだって抱いちゃいない。

「一般人同士の色恋沙汰なら、俺だって文句は言わねェさ。寧ろ、同性だろうが異性だろうが恋愛は自由だと思ってるくらいだからな。…だが、雷光はそんな一般人じゃない。あんなヤツでも、歴とした芸能人なんだよ」

勿論、駆け出しの、とは付くが。
とは言え、雷光はテレビの画面やスクリーンに、その姿を晒しているし。最近は知名度だって、有り難いことに上がってきている。
全てがこれからってヤツの芸能人生を、みすみす棒に振るような真似なんぞ、出来っこないのだ。


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