SCANDAL2/8


「あ、待って…っ。待って下さい、雷光さん」
「もう、待てない。長らく禁欲していたんだ、少しだけでも良いからお前に触らせておくれ。毎日のようにお前が近くに居て、指一本も触れられないという状況は、私にとって生殺しも当然だったのだから。キャンペーンも上手くいったことだし、お前から褒美を貰っても、罰は当たらないはずだろ」
「ほ、褒美って。貴方は一体何歳ですかっ。それに僕から何も出ないって、先程お伝えしたでしょう?」
「…ならば、お前は私に触れぬ間、僅かでも淋しく感じたことは無かったというのかい?」
「それは……。それは、淋しかったに決まっているじゃないですか」

二人の姿はこっちからじゃ垣間見ることは叶わない。だが、ただならぬ雰囲気になっていっているのは安易に理解した。
こういう場合、即座ににその場から、立ち去るべきだろうが。しかしこの時の俺は、柄にも無く当惑し、微動だに出来ずにいた。

「…ならば、問題ないだろ?先輩への報告書なら、事を済ませた後、書けばいい…」
「そう言っておいて、簡単に離してくれないのは、いつも貴方の方でしょ…?」
「そうだったかな?」
「そうです」

クスクスと笑う、二人の声。それを境に話し声はぱたりと止み、その代わりに聞こえてきたのは、耳を疑いたくなるような、熱い息遣いと淫らな水音。

「俄雨……」
「んん…、…ふ…ぁ…っ、雷光さん…」
「…此処に触れても、構わないかい?」
「…ぁ、そんなこと、一々、訊かないで…下さいっ。そんなことより、早く…」
「何だかんだ言って、お前も積極的じゃないか?ふふ、私はその方が寧ろ嬉しいのだが…」
「僕をそうさせた…のは、…あ…っ、外ならぬ…、貴方なんですよ?…ちゃんと、責任…、取って…下さいますよね…?」
「あぁ、喜んで…」

軋む音、衣擦れの音、濡れた吐息。
説明などなくても、扉の先で何が行われているかは、最早、一目瞭然だった。

何なんだよ、これは。何なんだよ、この状況は…っ。

「あぁっ…ん…っ!」
「――っ!」

あられもない俄雨の声に、一気に全身の体温が上昇する。
羞恥に困惑、それから、正体不明の苛立ち…。雑多な感情が入り交じって、自分自身、訳が分からなくなる。
心音が耳障りなくらい響き、握り閉めた拳には嫌な汗が滲んでいた。
僅かな身動きさえ出来ず、ただただ茫然と立ち尽くしていると、突然、背後から声を掛けられた。

「……兄さん?」
「か、和穂っ!?」
「しっ、静かに。大きな声を出したら、二人に聞こえちゃいますよ?」

思わず上げてしまった声を、手の平で塞がれる。
そしてそのまま少し強引に、腕を引っ張られた。

「…ふぅ。此処まで来れば声を出しても、平気そうっすね」

事務所の外まで連れて来られて、漸く、その腕から解放して貰えた。

「和穂、お前、なんで此処に?事務所にずっと居たんじゃ」
「他のタレントのマネージャーから緊急で連絡を貰って、ちょっとだけそっちに出掛けてたんですよ」
「……そうだったのか」

なるほどな。道理で、あの二人が事務所で好き勝手出来た訳だ。

「雷光君も明日は久々のオフなんで、どうか彼の好きにさせてあげて下さい。それに、あの状態の二人の前に顔を出したところで、兄さんにとって得になることなんて何もないと思いますよ?」
「………」

まぁ、その通りだろうな。恐らく、和穂の言う通りだ。あのまま顔を出したところで、気まずさは拭い切れなかったはずだ。

「…あ、そう言えば、兄さん。今日は出張じゃ無かったんですか?」
「…まあな。急にクライアントの都合が悪くなってな」
「それですぐこっちに帰って来たと?」
「あぁ。用が無くなったのに、行っても意味無いだろ?」
「まぁ、そうっすが…。観光でもしてくれば良かったのに。そうすれば、あんな…」
「………」
「別に私は、兄さんを責めてないっすからね?」
「…んなこと、分かってるよ」

分かってはいるものの、後ろめたい気分になるのは何故なんだろうか?
此処は俺の事務所で、たまたま運悪くこっちに戻ってくる羽目になっただけのことで。俺自身は、悪いことなど何一つしてはないっていうのに…。


2/8

back next


Back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -