「 お前か…。世界樹の落とし子は 」



そう呟いて、エールをみた彼は冷たい目をしていた。主に怒りの表情で、その中でも鋭くてヒンヤリとした目に怯みそうになったエールは瞬きをしながら目をそらさないようにと彼を見て、見つめて、そしてほんの少しだけギルドの皆に見せる表情の喜びが見えた



「 俺は、ゲーデ…。会えて嬉しいぜ 」



ゲーデ。そう自分から名乗った彼にエールも自分の名前を言うべきか迷って「えっと」と声をもらす。すると今度はゲーデが嬉しそうに口角を上げて腕を乱暴に振るうと私の鼻先も掠めて、風だけが頬を撫でて通り過ぎたような感覚に唖然と思想になるのをこらえて私は彼をじっと見つめる



「 ここでおまえをほふる事ができるんだからなぁ! 」



また特異な腕を振るうゲーデの目は、悲しそうだった。今にも泣いてしまいそうなその目に私は敵意もなにも感じられなくて。泣いてしまいたいのを必死にこらえている子供、いつかのエールみたいな目をして口だけが笑っている



「 お前が始めての獲物だ…! 」



この子もとんだ嘘吐きだ。だなんて、口の中で留まってしまった言葉を消すようにまた特異な腕を振り上げたゲーデにエールがはっとしたように武器を握ったのに。私だけが取り残されたみたいに刀の柄を握る事が出来なくて、諦めた。エールは隣ではじめて向けられた憎悪に戸惑って戸惑い、武器を握る手が震えている



「 浅葱ちゃん! 」

「 私は、 」



走ってくるゲーデは
エールよりも大きいのに。エールよりも幼い子供みたいで



「 君を敵だと思えないんだよ 」



綺麗事だと、皆は私の事を笑ってしまうんだろうか。例え、今振り下げられようとしている腕がどんなであろうと、ナイフを持っていようと怖いものは怖いし、膝だって今にも笑ってしまいそうだけど。それでも、愛しく感じて



「 ゲーデ 」



エールと同じように名前を呼んだ。
自然のように、当たり前のようにその名前を口にしただけ。それだけでも止まらない腕の速度に私は目を逸らさずに右の手をその頬に伸ばした



「 エール、そんな事をしたらもっと痛いよ? 」

「 …ッ 」

「 痛くて苦しくて悲しくて、もっともっと辛いよ?だから、やめよう? 」



私なんて君のとったら怖くて嫌な感情の塊で不吉なのかもしれない。それでも手を伸ばして触れた頬はおかしなほど冷たくて、青白くて、指先から『負』が伝わってきそうなくらい彼は戸惑っていた。目を左右に動かして私を見ないようにと視線をそらして、下げるはずだった手をどうしたらいいのかわからないとばかりに見ている



「 下げなくていいの。傷つけた分、自分も傷つくんだから 」

「 やめろ、お前らが、お前らが、俺を、俺をッ!! 」

「 ゲーデ、 」



ごめんねすら口に出来なくて。いっそ抱きしめてしまおうかと一歩近づくと彼が一歩引いて、自分に触れている手を怯えるように引き剥がした。ちょっと私も傷ついたけれどこんなことじゃへこたれない。絶対にへこんでたまるものか



( 敵にも見えないし、負の塊にも見えない )
( エールと一緒。エールと思い方が違うだけ )
( 姿かたちが違うだけで、愛されないのはおかしいんだよ )

11/0205.




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