「 お、おねえちゃ、 」

「 大丈夫?怪我はしてない? 」

「 う、うん… 」



まだ薄く明るい光の中で振り返ると黒ずんだ煙が起爆装置のあった場所を包み込んでいた。ただその黒を見ていると、一瞬光る赤。その赤は人が放つものよりも鋭く、心をえぐるようなナイフのようで。それをエールが私の腕の中で見てしまったせいか震えるのが伝わって、頭を撫でながらゆっくりと腕を外す



「 ここが…世界樹の外か… 」



世界樹の細い根が広がっていた赤い植物の上は黒ずんでいて。右腕が怪異と一体化してしまったような腕をだらんとさせ、左右違う色の目をきょろきょろと動かして少し暗めの紫色の髪を少し見てから、自分の手を自分の顔の前まで持ってきて掌をじっと眺める



「 これが俺の姿…? 」



数秒みたくらいで手をだらりと下げてエールの方を見た。
まるで『疎ましい』と、『邪魔だ』という悪意をそのままむけたようにゆっくりと目を細め



「 おまえが人間か? 」



物珍しげにそう聞く。エールはどうしたら良いのか戸惑っているようで、おどおどしたように縦に頷くとその男の子は不満げに、また嫌を顔に出して表情をゆがめた。負の想念の塊。エールとの逆の存在が、彼女の事を悪意で睨みつけた



「 こいつら人間から、俺が生まれたのか 」



もうエールに言っているのか、それとも腹立たしさを私達にぶつけたくて牙をむき出しにしたのかもわからないような荒々しさにゼロスが横目で後ろにいたジャニスと助手を見た。



「 おい、インテリさんよ。ひとまずここは、逃げときな! 」



そう声を上げて。
バタバタと逃げていく彼らに見向きもせず、エールはただ呆然と男の子を見て何も喋らない。ただ、見つめているだけ。



「 エール、 」

「 おねえちゃ、ん 」



私はそっと踏み出してエールの隣に並ぶと、やっと言葉を口にしたこの子の目がどんな風になっているのがか見えた。きょとん、としている訳でもなく唖然としている訳でもなく、知り合いにあったような、不思議な表情と目をしていた



「 わたし、 」

「 今は、前を見ていなさい 」

「 え? 」

「 彼から目を逸らさないの 」



真っ直ぐに見て、真っ直ぐに受け止めてあげなくちゃいけないんだからね。こればっかりは私の役割じゃないし。貴女が、エール自身が彼の存在をゲーデの事を抱きしめてあげなきゃいけないんだよ。今は、生まれたばかりの赤ちゃんみたいにいきなり生み出されて、息苦しくて混乱しちゃったんだと思うの。

だから、



「 いつか抱きしめてあげてね 」

「 …おねえちゃん? 」

「 いいから、前を見るの 」

「 …うん 」



彼を救い上げるのは、君なんだよ



( 生まれたての赤ん坊が産声を上げるのは嫌悪感から )
( それと同じなのに彼は泣く事が出来ないから )
( 彼を形成した私達を、彼は、苛立ちの目で見つめていた )

11/0205.




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