足音が妙に頭に響く。さっきまで走っていたのに今度は踏みしめて歩く感覚に緊張感が体中をざわめかせてゆっくりと足音を立てるように歩く。私が近づいているのか、向こうが近づいているのか曖昧になるような足音で、ただのんびりと、はっきりと。感覚のずれを感じながら、その赤い水玉と、最近可愛げがないと定評のある助手に近づく。悪意100%です



「 ニャー!上手くまいたと思ったのに。追いつかれちゃったですよ、先生! 」



その声に振り返るジャニス。四角い箱を操作しているように叫んだ助手の手元だけはしっかりと動いていて私はその箱に水でもかけたら壊れてくれるんじゃないんだろうかとか、あの助手に冷水かけたいとか。あらゆる願望が駆け巡る中で冷静な表情を作りながら皆の後ろに、立つ



「 待ってください…。ラルヴァの正体が何であるか、私達にはわかっています 」

「 そんなハズがありません、先生! 」



訂正します。
今すぐあの助手に石投げたい。悪質なのはわかっているけれども、流石にリフィル達が苦労したその結果を聞かずになかったことにしようとするのはいかがなものだろうか!
そう思いながら、ゆっくりとジャニスに視線を向けると助手を制すようにゆっくりと腕を横に伸ばす



「 聞こう、それがリアリーであるのなら私も興味がある 」



不覚にもその動きは綺麗で、姿勢が凛としていたためかジャニスはその赤い水玉しか印象に残っていないのにも関わらず。今新しい、ジャニスフォルダが頭に出来てしまったじゃないか。なんという罠。



「 ジャニッシュさん、あのね 」



…いや、エール。それ新しい人になっちゃうから。ラディッシュみたいな雰囲気で言わないの。彼の名前はジャニスだよ。そうも思っている間にエールは説明を始めたようでジャニスが所々頷き、目を見開いたり、顎を撫でたりと相槌以外にも表情が豊かな人のようです。ただ、まだ少しだけあの複雑感が残ってるからなんとも言えないんだけどさ



「 ホワット!? 」

「 え?わ、あっと? 」

「 『負』…? 」

「 えっと、そう、負なんだけど、 」

「 ラルヴァの正体が人間の生み出した負の感情の塊だというのか 」

「 う、ジャルディッシュさん置いていかないで! 」



ついにエールが怒り始めたようです。っていうか一方的に話に加われなくて不満なんだろうけれどもね?ジャルディッシュって誰なんですか。あれですか、新キャラクターですか。ダルヴィッシュみたいに言わないで、何度も言うけれどその人は『ジャニス』よ!気付いて!



「 …普通に受け入れてもらえているようです 」

「 異端扱いされてた野郎だからねぇ。常識より非常識の方が馴染むんじゃないの? 」

「 非常識にも対応できる柔軟な思考があるって考えたら凄くポジティブに聞こえるよね 」

「 柔軟な思考…。それが異端とされる… 」

「 権威主義的な学会って所は、そ〜いうもんなのよっ。プレセアちゃんv 」



どんな時でも常識が何処にでもあるように非常識だって何処にでもある。人と影の関係みたいなものだって屁理屈みたいに言ってみるとプレセアが頷き、ゼロスが頷いた。その調子の前の二人を通り越してエールとジャニスへと視線を移すと少し考え込んでいたジャニスが大きく縦に頷いた



「 わかった、アイ・シー。 」

「 ほんとう!? 」

「 ああ。それならば、君の理論で検証するまで実験はストップしよう 」



柔軟すぎるくらいに柔らかな思考。
その後ろで助手が慣れた手つきで四角の箱のような起爆装置に触れる。それから起きる事は全て、鮮明に覚えていて。その通りとばかりにその手が焦りで大振りになって、挙句に手を振り上げた



「 解除できましぇん!! 」



そう叫んだ助手と
無情にもカシャン、と赤いレバーが下へと向かう音



「 先生どうしましょう…。爆破スイッチが入っちゃいました 」

「 装置を切れ、ハリアップ!! 」

「 ま、間に合いませーん!! 」

「 もういいからこっちに来い!死ぬぞ! 」



思わず叫んでしまった私の方を見て二人はこちらへと向かってくる。そして私の横を通り過ぎて、ただ呆然としているエールの手を引っ張って抱きしめた。怪我をしないように。今度は嫌なものを、世界樹が傷つくところを見ないように



( 起爆の光に背を向けて )
( 心も身体も傷つかないように抱きしめてあげる )
( 少し怖いけどそのためなら、自分が傷ついても構わないから )

11/0205.




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