「 浅葱じゃなくても、僕が行っても良いと思うんだけど! 」

「 だーめ!浅葱お姉ちゃんったら、浅葱お姉ちゃんじゃなきゃ駄目なのー! 」



何の話ですか。とは切り込むような様子じゃなかったので、寝起きのまま気分の悪い胃を撫でるようにホールメンバーに挨拶をすると何も見ていないかのように返事が帰ってきた。今日も平和だなあ。一部除外して。何で朝からそんなに元気良いんですか。子供だからですか!うらやましいなあ!



「 ゼロスがいるんだから、エールと浅葱とぷ、プレセアじゃ危ないんだって! 」

「 何が危ないの!?浅葱お姉ちゃんが居るんだから大丈夫だよ!それにゼロスが護ってくれるって約束してくれたもん! 」

「 その危ないじゃないってば! 」

「 なあ、ジーニアス…自分も行きたいってのはわかるけどよ。浅葱もいるんだし、大丈夫だろ? 」

「 ロイドの鈍感は黙ってて! 」

「 はあ? 」



ど、鈍感…と近くから聞こえた声に振り返るとクラトスが頭を抱えていた。なんというかクラトスは本当にロイドのお父さんって感じがする。こういう微妙なところが似てる。自分が言われたわけではないのに自分の事のように思うところとか…



「 いいたいことはわかるけど、大丈夫だって。プレセアのことなら私が守るから 」

「 …あ、浅葱… 」

「 あの赤毛に何かあったら容赦なく捨てていくから、ね? 」

「 ちょーっと、俺様の扱い酷くなーい? 」

「 はいはい、哀です。哀 」

「 ちょ、愛情じゃないの?! 」

「 え?哀情? 」



哀に情。なんとも見た目からして悲しい漢字を作ってしまったというやってしまった感のある字面なんだろう。失敗したような、ある意味正解のような複雑な感情がぐるぐる回ってしまいそうです。なんだろうな、これ。



「 浅葱お姉ちゃんは一緒にいってくれるよね?!浅葱お姉ちゃんじゃなきゃ嫌だよ、わたし、浅葱お姉ちゃんが良いもん 」

「 え?いや、どこに? 」

「 粘菌の巣! 」

「 …なんで? 」

「 ジャニシュを止めにいくんにゃよ! 」



急ぎすぎたんだね。
思いっきり一文で二回噛んでしまった我等がディセンダーは赤い舌をちろりとだしてひーひー言っている。しかもカイウス、カイル、エールという順で犬が増えてしまった事にはどうしようもない。なんて犬パーティ



「 ジャニスのヤローが、世界樹を傷つけようとしてるって事でそれを止めに行くんだってさあ 」

「 ……それで、私、プレセア、エール。ついでにゼロスのパーティで行こうって話でジーニアスが必死になったと… 」

「 いやー、浅葱ちゃんが来る前からずっとだったんだけどねえ 」

「 じゃあ大分体力消耗してそうだ… 」



戦う前から何やってんだ、少年少女。
元気がよすぎるにもほどがあるぞ、畜生。その元気分けてくれ



「 浅葱ちゃんが、俺様に可愛くおねだりしてくれたらがんばれるかもー 」

「 あっはは、冗談にしてはすぎるよ。街の女の子にお願いしてくれば? 」

「 うわー、ひっどーい。傷ついちゃーう 」

「 まあ、それなりに期待してるよ? 」

「 え 」

「 だって、護ってくれるんでしょ? 」



それも壁という意味で。それでもパーティに頼れそうな人がいると期待をしてしまうのはまあ確かで。冗談のつもりでもそう口走ってしまったことに自分でフォローを入れようかなあ、と振り返るとゼロスの青い目が私を見ていた



「 あー!ゼロスってば、浅葱をそういう目で見ないでよね! 」

「 ……お前ってば、本当にムードとか読めないよなあ 」

「 うるさいな! 」

「 ジーニアス、あんまり怒鳴ってばかりいると疲れるからね?それに喉つぶれちゃったら詠唱も出来ないんだから、大切にしないとだめだよ? 」

「 うん 」



軽くジーニアスの頭を撫でながら甲板に行こうとすると、腰のポーチに入っているハロルド特性の薬が揺れる音がした。



「 お姉ちゃん、もう出るの? 」

「 ん。出るよ 」

「 でも、まだ早いと思う 」

「 まだ目が覚めてなくて、ちょっと風に当たって頭の中をすっきりさせてきまーす 」



戦いに行くには上手く気合が入らなくて、後ろを向いたまま手を振った。いまだ吹っ切れない。ずるずるずるずる引きずって、何処までも引きずって。霧の晴れない森の中でずっと迷子になっているような感覚に誰か手を引いてくれるのを待つだけの、小さな希望を胸に



( 浅い眠りじゃなくて深い眠りへ )
( 手招く誰かの後をついていって )
( そのまま、眠ってしまえれば幸せなのに )

11/0203.




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