ハロルドの作る薬のにおいをかぎながら、眠りについた私はやっと目を覚まして、ふらふらと出歩くとエールの髪と、リフィルの目が見えて近づくとリフィルがエールを通り過ぎて私の前で立ち止まり笑みを浮かべる。



「 丁度よかった、浅葱。 」

「 え? 」

「 エールもきたばかりで手間が省けたわ。今、ハロルドの協力によりラルヴァの解析が終了したのよ 」



なんて早い。私の刀の事もやってくれていたというのにもかかわらずあの天才科学者はやってくれた。予想外の速さ。一日は経っているけれど、もしかしたら寝ずにやっていたんだろうか。ラルヴァの解明を、私の体の分析を。だとしたら、なんて研究熱心な科学者なんだろう。凄い、の言葉じゃとどまらないな、あのショッキングピンク…



「 結論から言うと、自然界にありふれたエネルギーに負の想念を付属したもの… 」



一息をおいて、リフィルがゆっくりと口を開く。



「 それこそがラルヴァの正体よ 」



知っていました、すいません!
だけど、自然のエネルギーと負。となるとマナと混合しているんじゃないかとか思うんだけれども、マナが足りない分負が多くなったのか、比率問題だったとしても不思議じゃない。でも、これは自然への負の侵蝕とも受け取れるような、気がする



「 ふのそーねん? 」

「 えーっと、『負の想念』ってのは怒りとか、恨みとか、悲しみとかそういうものね 」

「 …うん? 」

「 つまりラルヴァを生成するってのは呪いを生産しているようなモノよ 」



エールが必死に頭の中をフル回転させているんだろうけれど、そこまでの知恵を吸収しているのかがわからないのでお姉さんはなんともいえません。というか、呪いね、呪い生産ね。看板に書くとしたら呪い売りはじめましたが一番いいのかもしれない。冷やし中華と同じ感じで



「 こんなモノの傍にいたら、精神、肉体も蝕まれちゃう 」

「 負の想念…って、そんなものがエネルギーとして作用するものなのですか? 」

「 ん〜…、たとえば人の恨みや怒りが『呪い』という形で魔法的効果が発揮されるでしょ? 」



例えば、ミスティックケージとかそういうヤツのことですか。あの人の放ってくるヤツは呪いとか関係なく悪意とかたまにあるんですけど



「 ラルヴァは科学的に生成しているけれど原理は同じなの 」

「 つまり? 」

「 つまり、ラルヴァは恐るべき破壊力を秘めているって事ね〜 」

「 …じゃあ、マナの差がどうとか言ってたのは? 」

「 マナが少ない土地は、負の想念が留まりやすいのよ。だから、ラルヴァが生成出来るの 」



ハロルドの言葉にエール、私の順番で突っかかって言ったけれど。案外アッサリと解決してしまう。この天才科学者は何処まで知っているんだろうか。いや、何処までわかってしまったのかもわからないぐらい、計り知れないというか…口を悪くして言えば、化け物みたいだ



「 確かに…マナには、場の穢れを浄化し、活性化させる力があるとロゼット村の世界樹信仰で伝わっています 」



ミントが疎ましげに、瞼を下げて小さく口を開く。綺麗な青い目が少しかげって見えるその姿に私は視線を同じように下げると、ホールの空気が重くなった。いや、ちょっと待て、これは私のせいじゃない!私が瞼をあげたところで明るくなる展開でもないから!



「 生成される場所がマナの恵みの少ない場所なのも、そういう理由があったのですね 」

「 世界樹がマナの生産力をこのまま落としていったら、あちこちに負や穢れが留まるという事になるわね 」

「 そして、さらには人の心と身体を蝕むだけではなく、大地の活力も衰退させていくってわけ 」



再びミント、リフィル、ハロルド。と言う順番で納得していくメンバーを横目にエールを見るとその手は私の服の袖をちょい、と摘んでいて。じいっと私のことを見ていた。何か聞きたそうなその視線に、私はすぐに笑みを作る事が出来ずにまだ上手く力の入らない手でエールの手を握った



「 マナの恩恵を忘れた世界…。なんて恐ろしい… 」



マナの恩恵を知らなくて、ごめんね。今、そう言ったら皆は唖然として私はそれに笑い転げてしまうだろう。だからこそ、何もいえなくてミントからも視線をそらしてエールの手をもう一度握ると、不安げなエールの手が、ぎゅうっと私の手を握る



「 どうしたの?お姉ちゃん、具合悪い? 」

「 ううん 」

「 顔色、よくないよ? 」

「 …ちょっと、船酔いしちゃったの 」

「 じゃあ、お部屋行こう?休んだ方が良いよ、浅葱お姉ちゃん 」



私の手を握ったままひっぱっていく背中はいつしか、昔の面影がほとんどなくなっていて。大きくなったねとか、言葉を沢山覚えたんだねとか、言いたいことは沢山あるのに



( 部屋についてベットに座るとエールが街の子達から聞いたとかいう )
( 元気の出る魔法の言葉を沢山唱えてくれた )
( なんていっているのか途中からわからなくなって、目の前に色がなくなる )

11/0202.




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