ぎゅうっと刀の柄を握ってみた。なのにどうしてだかわからないけれどまるで掴んでいるようで掴んでいないような感じがする。2:8くらいの勢いでこう、握っていないほうが多い。むしろ空気を掴むような無理な事をしているような気がする。それを不安げに見つめてくるルビア。敵を探すカイウス。多分、実戦で覚えろとかいうんだろう。無茶言うよ、本当に。
「 浅葱、大丈夫? 」
「 …こう、なんか 」
「 なに? 」
「 簡単に言うと、うなぎ掴むみたいだ 」
ぬるって柄は逃げないけれど、それと同じくらいに逃げていってしまいそう。だから余計に真剣なんて出せない。正直これは恐怖だ。まだ鞘のまま振り回す覚悟しかないし、それでいこうとか思い始めている私にとってはそれが一番安定してる。本当に真剣を出したらそのうちすっ飛んでって誰か怪我するんじゃないかってほどに。
「 じゃあ浅葱が、魔法使うとか 」
「 無茶言うな。でろ!って言って出るんだったらやってるわ!! 」
「 使えないの? 」
「
無理 」
そりゃ『でろー』とかいってふわってファーストエイドとか、ファイヤーボールが出たらなにこれすごくね!自分人間だったよね!?ってハイになるところだけれどもそんなものは出ないことはわかっているので、あきらめてます。
「 浅葱、いいから前出て戦ってみろって 」
「 カイウスも結構きつい事言うよな! 」
「 じゃあ、前に出て何か魔法言ってみるとか! 」
「 ルビア、それは私に
死ねと? 」
前線で魔法使う人はいませんからね?遠まわしにやられてこいと。ギリギリのスリルを味わえというのか。多分無理。むしろ、そんな事で出来るんだったら自分一人で突撃して無理にでも感覚をつかんでやりたいところだ。それにしてもこの二人が酷すぎて悲しくなってきたんだけど。
「 浅葱!後ろ! 」
「 え、なにこの水い
ブッ 」
「 ファーストエイド!!浅葱大丈夫!? 」
「 …くそ、オタオタめ…!いくら見えないからって
女の頬を尻尾でぶん殴るとは…!! 」
「 浅葱、あとで悲しむなよ 」
「 カイウス…
これは肯定とみなすぞ 」
ジャキ。と構えてみた刀。もとい鞘つきの打撃武器にカイウスが「ひっ」と声を上げた。ルビアはどうやら私の味方らしく、女という立ち位置として見てくれているので何とか脅す回数が減って
お姉さんはとても嬉しいです。むしろ女の子に庇ってもらっているようでなんか嬉しい。
「 とりあいず、それで戦ってみろよ。実戦で覚える事だってあるだろうし、うわっ! 」
「 どのぐらいの力で?全力?非気力? 」
「 非気力?なんだそれ 」
「 …ルビア、カイウスじゃあ突込みが物足りない! 」
「 だって、カイウスだもの。期待したら駄目よ 」
「 ルビアだって、 」
「 おま、ちょ、痴話喧嘩中止! 」
それじゃあもうオタオタさんを頑張って倒すから。一人で頑張ってみるから。とりあいず、魔神剣も出ないけれど私自身頑張ってみようと思う。とりあいず、どれだけ傷を負ってもルビアが回復してくれるだろう。こういうときはきっと信頼してやれば何とかなる。信じてるよ、二人とも!
「 あ!浅葱、後―― 」
「 え?な
ゴフッ 」
あれ?どうして今度は後頭部に衝撃を受けたんだ、私。さっき二人を信じるって思って正面のオタオタに向かって刀を振り下ろそうとしたところでどうしてこうなったんだっけ?
「 …ちょっと、カイウスがしっかりしないから浅葱が傷ついちゃったじゃない! 」
「 それはお前の援護が遅かったからだろ!?もっとはやく打てないのかよ! 」
「 詠唱ってものには時間がかかるの!カイウスはそんな事も知らないのね 」
「 ルビアがとろとろしてるからだ! 」
「 違うわ!カイウスが悪いのよ! 」
やっぱり、これ一人出来たほうがよかったんじゃないんだろうか。確かに戦い方を知らない私が一人で戦いに挑むのは危ないとか思ってくれたんだと考えれば口元が緩みそうなほどに嬉しいけれど。だけどね、
「
ふぅ〜たぁ〜りぃ〜とも? 」
「 な、なに、浅葱…!? 」
「 ど、どうしたんだ、よ…!? 」
「 ルビアはすぐに援護と回復に専念、カイウスは前で戦えいつまで後ろにいるん
あ、オタオタ踏んだ 」
ぷにゅっとしていてつるっとしているその水色のてっぺんの上に乗った私の足。通常オタオタとは膝上くらいまであるものなのに私がはいているヒールの所為で軽く踏めてしまうようで。動きたそうにしているオタオタが尻尾を振り回そうとしたところ私が尻尾に向かって刀を振り下ろした。
「 こうなりたくなかったら
働け 」
下手をすればこれは、
ただの殺人予告に過ぎませんがね( いつもなら笑顔で圧力をかけるところだけれど )
( そんな事をすると腹黒だとか言われそうなので )
( 未だに生きているオタオタにもう一度刀を振り下ろして、制圧 )
10/0814.
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