「 浅葱、少しいい? 」

「 …うん?どうした、ファラ 」



青白い表情のまま笑みを無理やり作って話しかけてくるファラに私が手刀を打てればもう放って眠らせているのに。できないのが歯がゆくて、笑顔を浮かべてファラの話を聞くような体制をとるとファラが作り笑顔を浮かべる。それが苦しく見えて、引きつりそうになるのを堪えて



「 依頼、手伝ってもらえるかな?リッドが一人で行くなって言うから、 」

「 …ファラ。その依頼は私が行くから、今日は休んでて。今日はもう仕事はしたでしょう? 」

「 浅葱、それはできないよ 」

「 それでも、私はファラについていくことも、ファラを仕事に行かせることもできない 」



病人みたいな顔をした人を仕事に行かせるほど甘くないんだよ、私は。でも無理やり寝かせるほど優しくないから、厳しい口調のままファラを見るだけ。頭の中でここで彼女が飛び出そうとしたらどう対処しようだとか、幾つかの可能性を考えた上で、ファラを止める



「 浅葱には、わかんないよ 」

「 言わずして気持ちなんてわかってたまるものか。一人で背負い込むのも勝手な話し出し、私がさっさと吐き出せって言えるような立場でもない。でもさ 」



私は、誰の事だって



「 心配してるんだよ 」



そうやって緑色の髪を撫でて、ファラの持っていた依頼の紙を奪い取る。折りたたんだ髪を開くとたった三文字書いてあった。私には読めない三文字をため息をつきながら、近くにいたユーリに渡すと彼も苦笑しながら「はずれ」と読み上げ、ファラが顔を上げる。



「 チャットも仕事に行かせたくないって。船長命令つきだから、無理に反抗するなよ。念のためにカノンノにも止めてもらうけれど、 」

「 それは僕に任せておいてくれ 」

「 なんだ、キール。随分と良いときに出てくるなんて狙ったの? 」

「 違う! 」

「 そう。まあいいや。じゃあ頼みます。 」

「 ちょっとまて、お前は何処に行くんだ? 」

「 どこって、お仕事 」



チャットから何の仕事をもぎ取ってこようかと思いながら私は伸びをするとキャプテンハットが見えた。丁度、仕事を貰いに行こうと思っていたからいいとしても、珍しい。食器を持っているわけでもないのに



「 浅葱さん 」

「 …うん? 」

「 ハロルドさんから、これを 」



出てきたのは、刀。それも魔術式を取り込んだとかなんとか言っていたやつだ。試作品、とは違いそうな感じはするけれど。と首をかしげるとチャットがふう、と息を吐く。なんだ、そんなに重たい事でも言われてしまったのか?いや、でも、



「 言っとくけど、完成品よ。それと、 」

「 …ちょっとまて、何で本人がすぐそこにいるのにチャットがこれを渡してきたんだ 」

「 そんなのどうでもいいじゃない。まあ、あんたがそれを使うのは良いんだけど、なんか薬とか作ったげよっか? 」

「 …なんか、って 」

「 そんなのはついでなんだけど、帰ってきたら再検査よ。いいわね、逃げたり途中で気絶したり、倒れたりせず帰ってきなさい 」

「 ハロルド、まさか 」



昨日のことも既に見透かされてたりしませんよね?そう視線を向けると複雑そうな表情のまま私を見て、視線を落とした。
多分、バレてる、これって、バレてる



「 とんだ、嘘吐きね。本当に 」

「 …失礼だなあ 」

「 安心しなさい、薬は作ってないわ 」

「 じゃあ、採血? 」

「 そうね、2,3本 」

「 本気の検査か…憂鬱だけど、ちょっと行ってこようかなあ 」



新しい刀を鞘ごと固定していつもの位置に戻す。それだけのことなのに妙な気がして振り返ると皆の視線が刺さる。それでも、私は行って来ますって笑うのだけれど



( 元々、あの天才科学者に嘘はつけない気はしていた )
( でも本編の話だけはしない )
( それ以外はあの子の耳に入らなければどうでもいいや )

11/0201.




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