「 あのね、大変なの。ファラが倒れちゃって 」
「 あー…、あいつ…、加減ってものを知らねぇからな 」
珍しく開きっぱなしの食堂の扉から聞こえた声は、多分リッドとコレットだ。私はその声に近づこうとして、やめた。今日は妙に腕が重くて人に構っている暇などないとばかりの身体のだるさ。何もしていないというか、いつもどおりに作業して家事を手伝って満足して眠りについたはずなのに、腕があげきらないうちに下がってしまう。疲れてるのかなあ
「 全力で仕事に打ち込んで自分が無理してた事にも気がつかねえんだ 」
「 今、部屋で横になってるんだけど、だいじょぶかなぁ? 」
「 身体は丈夫な奴だからな。このまま寝込んだりはしない…と思う 」
せめて食堂の扉を閉めようとして、エールの髪色が見えた。丁度傍にいたとしてもおかしくはないその現状はマーボカレーを食べている最中のようで、二人の会話をBGMに好きなことしてるのが確認できて、少し微笑みながら扉に触れようとすると、ファラが青白い表情で、目線一つ向けずに食堂に入っていく
…ん?あの、ファラが?
「 っと、ファラ!大丈夫か? 」
弱弱しい足取り、彼女には似合わないくらいの青い顔。一度視線は私にも集まったはずなのに、どうして誰も声を、かけてくれない?もしかして、嫌われるような事をしたんだろうか。それとも、何か、なに、
「 まったく、働きすぎなんだよ、おまえは… 」
「 うん、もう大丈夫…、だよ。心配かけてごめん 」
「 いや、オレはいいけどよ…、コレットも心配してんだぜ 」
「 あ、そうだね。ごめん、コレット。心配かけちゃって… 」
私、扉を閉めようとして、指先を扉に引っ掛けたはずなのに
「 うん…、でも、顔色悪いよ?まだ休んでいた方がいいんじゃないかな 」
「 ううん、イケる、イケる。頑張らなくっちゃ!! 」
どうして、指先が半透明のまま、扉に埋まっているの?
発作じゃない。全然違う事が起こってる。痛みはない。だるいだけ。腕が重たくてそれで、それで?頭痛もなにもないのに、どうして、私にこんな不可解な現象が起きてるんだろう
「 だって、困っている人からこんなにたくさんの依頼が来てるんだもん。休んでなんかいられないよ! 」
そっと、指先を扉から引き抜いても、色が薄いだけで扉に何の以上もない。まるで、透明人間のように、そこにいるようでいない幽霊のように、透けてしまっているだけで
「 …いつまでも逃げていられないもんね 」消えるって感覚もない。
ただ、あのときよりも痛みがないだけで、
「 ん?なぁに? 」
「 え、ううん。何でもない。何でもないよ!あ、そういえば、掃除当番だったっけ… 」
「 オレとキールでやっといた。あとであいつにも謝っとけよ 」
「 ありがと、リッド 」
「 いつものこった 」
ただ薄くなった指先を眺めてから、前々から勝っておいたレザーグローブを手につける。本当はガレッドのときようだったのに、手を隠すために使うことになるだなんて、思わなかったなあ。
「 さあ、仕事仕事!!休んだ分、頑張らないと! 」
元気よく響いたファラの声に顔を上げるとファラが食堂から出てきて私に笑いかけて「おはよう」と笑って通り過ぎていく。私はそれに頷いて返事を返してみたら、食堂でマーボカレーを食べていたエールが振り返って笑った
「 元気になったみてえだな 」
だなんて、ファラに優しい声をかけたリッドの声が妙に耳に響く
「 …頑張りすぎて、またオレが尻拭いする羽目にならなきゃいいけど 」
「 駄目だよ、リッド。ファラは頑張っているんだからそんなこと言っちゃ 」
「 そうだな… 」
コレットの正論。私はいつもあの子が正しい事を言っているようにしか聞こえないのはあの子が正しいという意思を正義だと無意識に思っているからなのか。それとも、ロイドの影響が大きいのかわからないけれど、たまに耳が痛いなあ。なんて思いながらゆっくりと足を踏み出した
体の変化についていけずに( その場所から逃げた )
( 耐えられなかったのも、受け入れ切れないのも )
( 全て、私 )
11/0201.
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