思わぬチャット泣かせについて、ホールメンバーに何も責められず何とか逃げ出すようにやってきた科学部屋。相変わらずの風景の中に異質が一つあった。火のように燃えているような、マグマのような色合いを中央に宿した大きな石のようなもの。触れないように、ジッと見つめているエールを横目にリフィルが私を呼んだ



「 丁度よかったわ、浅葱。これを見てちょうだい 」



これ。というのはやっぱり大きな石。
大きなクリスタルの結晶のような、それ。



「 さっきあの子にも説明したんだけれど、これがラルヴァを閉じ込めたマターよ 」

「 マター?この石みたいな、切り株みたいな、宝石みたいな、何ともいえないものが? 」

「 ええ。赤く光っているでしょう?これでもほんの一部だったのだけど、莫大なエネルギーであることは間違いではないわ 」



その切り株のようなものは赤く煌く。微妙に点滅しているように光が強くなったり弱くなったりしている。吸い込まれそうな光だが、触れたいとは思わないような怪しい、光に私は目を細めるけれど、エールははじめてみるものに関して興味深々なので表情は楽しそうだ



「 ふん、少ないなぁ。これだけで解析ができるのか? 」

「 でも、エネルギーは莫大よ。取り扱いには注意しなくてはね 」



赤く煌く点滅。ラルヴァのマター。
これを世界中の学者の何人が欲しがるんだろうか、と考えた矢先。見覚えのあるショッキングピンクが除き見るように近づいてきた



「 へぇ、それがラルヴァ?ちょっと見せて 」

「 な、なんだ、こいつ! 」

「 ハロルド・ベルセリオスよ。このラルヴァ、もらっていい? 」

「 あなたが、あの?見た所、女性のようだけど… 」



この名前で勘違いされるって事を理解したうえでのハロルドだからなあ。それはディスティニー2でも変わらないし、こっちでも変わらなくてもおかしくはないんだけれども。なんというか、私のときとは少し違う感じで複雑だなあ、もう



「 馬鹿馬鹿しい。あの有名な学者が、おまえのようなチャラチャラした奴なわけないじゃないか 」

「 う〜ん、アベレージから逸脱しないきわめて一般的な反応ね。ま、でも、学生ならそんなもんかぁ 」



やっぱり、そこまで考えてますかハロルドさん。
その頭の回転具合を参考にさせてもらいたいけれど、残念ながらそれができないのがショックだ。私の前に出てきたハロルドはリフィルのほうを向いて目を爛々と輝かせている



「 んで、ラルヴァの解析、私にもやらせてくんないv 」

「 ええ、一緒に研究が出来るなんて光栄だわ 」



この二人を組み合わせた時に大事なのは、何があっても料理はさせないという事だ。リフィルはもともと余り上手くはないし、ハロルドはそれに対して劇物、いや試験薬投入の恐れがあるという事をこの船に乗っている人達の何人が知っているんだろうか!



「 あなたの理論には常々新しい視点に気付かされるもの。キールも良くって? 」

「 リフィルがそう言うなら… 」

「 じゃあよろしく、ハロルド 」

「 はいはい、よろしく〜 」



よろしくしていい、よね。うん、別に研究するだけだし、料理じゃないから多分害はないし。うん、信用しよう。仲間って信じるのが大事だよね。信頼って築くのは大変だけれど、どちらかが信用しなくちゃ出来ない大事な事だから、



「 ああ、そういえば、浅葱 」

「 何?ハロルド 」

「 アンタの刀もう大体出来てるんだけど、ちょっと握ってみてくんない?それでまた調整するし、あと一発術を撃ってくれるともう少し完成度上げられるわよ? 」

「 はーい。ちゃんと詠唱しないと駄目な感じ? 」

「 それはまだわからないけれど、真面目にやらないと怪我するから 」

「 んー 」



柄の握り具合はもう少し細くても良いかもしれない。流石というか、ディムロス達を作ったんだからそりゃそうか。とも思ってしまう出来だ。あとは、術が上手く使えれば、



「 外で良い? 」

「 しょうがないわねぇ。じゃあ、ちょっと仕事しながら行くわよ 」

「 仕事? 」

「 足りない鉱石とかあって丁度困ってたの。ほらほら、早く行く! 」

「 じゃあ、鉱山か… 」

「 浅葱、ついでにバットも減らしておいて下さい 」

「 お使い!?それお使いにいう言葉!? 」

「 はっはっはー 」

「 きっさまああああああああ!! 」



でも、術使用の出来る刀が手に入るのなら頑張ろうと思います。いや、多分この刀でも出来るんだろうけれども。ハロルドに押されながら科学部屋を飛び出すと、ハロルドがため息をついて私を見た。秘密の事、だろうか?頭の中でそう誰かが囁くように出てきた。

約束は沈黙



「 アンタってそれでいいの? 」

「 …間違ってる? 」

「 検査の結果は面白かったけど、リアラやカイルとも違いすぎる数値よ。あと貧血ね 」

「 そういわれても、私は私の中の正しいって奴をやってるだけなんだ。だから、手を借りたかったら借りているし、借りたくないから借りていないだけだよ 」

「 本当に、予想外の事を口走るわよねぇ。浅葱は 」

「 それに、今からじゃ間に合わないんだよ 」



いつか赤目に言った『後悔しない道を歩く』という言葉の通り。私は後悔をしていない。あるのは後悔じゃなくて寂しいと、悲しいと、あの子が笑っていられるなら何でも良いってことだけ



( 間違いなんかじゃない )
( これが私の正義 )
( この嘘こそが、私の正義 )

11/0130.




- ナノ -