着物以外に服がなくなった私はエールが買ってくれた服を身にまとってはみたけれど、どうもあのシャツとズボンが恋しくなる。黒いボディスーツとかも愛用するようにはなっていたけれど、まさかタイツ代わりになるだなんて作った人も考えなかっただろう。むしろ、この世界でタイツはいてる人見たことないや。売ってるんだろうか?ガードルとかはありそうだけど。だが、これは、



「 似合って、ないよねえ 」

「 ぐふふ、見つけたわよ! 」

「 へ? 」



扉を開けた瞬間、ショッキングピンクが一面にうつって思わず身を引く。
このショッキングピンクに名前があるとしたらハロルド・ベルセリオス。未だに私が自己紹介をしそびれている人だ。しなくてもご飯の時とかに会えば知る事になるのが私の仕様というかパニールの計らいなんだけれども



「 何してんだ? 」

「 データ採取よ!アンタ、さっさと血を寄こしなさい! 」

「 は? 」

「 いいから、サクッとやられてくれれば良いの 」

「 いや、よくないだろッ!! 」



頭の警報が鳴り響いてる。
物凄くやばい気がする。このショッキングピンク。
急に喉がカラカラになって、思わず私は武器とアイテムバックを持って今まで使った事のないような運動神経まで研ぎ澄ませる。次、このピンクが飛び掛ってきた瞬間が、逃げるときだ…!



「 さあ、さあ、私にデータをとられると良いわ! 」

「 その上から目線にあえて抵抗するのがこの私! 」



ちゃんといったら変だけれど、妙な決め台詞を口走って上手く避けて廊下を駆け出す。今度つかまったら今ハロルドが構えている普通の注射器よりも大き目のやつであっさり刺されてしまうのも目に見えているんだ。依頼を請けてこの船から飛び出してしまえば…!



「 あっれ〜?浅葱ちゃん、可愛い格好してるけど、なあに?俺様とデー 」

「 ゼロス、暇なら匿うどころか犠牲になってくれ! 」

「 え? 」

「 あと服はジェイドに燃やされたからこれは、しょうがない事故だ! 」

「 何逃げてくれてんのよ!さっさとサンプルになりなさい! 」

「 さっきより言い方が雑というか扱い酷くないか! 」



サンプルは違うよ!私よりゼロスのほうがサンプルに…いや、でも神子だしな。エールも少し違うし、ガイとかユーリとかのほうが…あえての、うーん



「 しかも血なんて抜かれたらただでさえ貧血気味なのに! 」

「 じゃあ、髪の毛一本で許してあげるわ 」

「 軽っ!血の価値軽ッ!そして、それでも嫌だ! 」

「 なによ。なんかやましいことでもあるわけ? 」

「 うーん…じゃあ、交換条件 」



袖を捲りながら左腕を出した私にハロルドが首をかしげた。ただでこの天才科学者あげるものなんて何もない。欲しいものは沢山あるけれど、一番大切なのは秘密の事。血液と髪の毛で私との取引がうまくいえば良い。よく言えば交渉、悪く言えば自滅行為



「 一つは私に、晶術を使えるような刀を作って欲しい 」

「 …なに?あんた使えないの? 」

「 拒否反応が身体のほうで起きるんだ。あと、もう一つ 」



髪の毛を一本抜く音が頭に響く



「 その身体について、何を知っても、何がわかっても約束してほしい事は沈黙と無関心だけ。だけど、無関心については天才科学者の君には無理そうだから、 」

「 沈黙を約束しろっていうのね。そこまでして隠したい何かがあるって、あんた何者よ? 」

「 追求も却下。というか、聞かれてもわからないし 」

「 じゃあ、知りたいとも思わないの? 」

「 言い方が悪かった。わかっているけれど説明しにくいんだ 」



ふうん、と興味ありそうに頷いたハロルドは普通サイズの注射を取り出して私の左腕にアルコールの匂いのする綿で拭いてから針を入れる。私はその様子を見ているだけで赤が飛び出してくるのを静かに見るだけで、ふと横目に見たゼロスの目は何処か冷たかった



「 でも、人間なんでしょ? 」

「 うん。人間って言うカテゴリーに存在しているのは確かだけど、 」

「 じゃあ、それでいいじゃない 」

「 軽いなあ 」

「 沈黙を約束したもの 」



少し鼻歌交じりで私の髪の毛を試験管に放り込んだハロルドを見ながら息を吐く。あれだけ真剣に言ったのにもかかわらず、アーチェは体重のこと?とか呟いているから余計に気が抜けてしまいわかったのは多分数人だろう。すぐ近くに経っている不良神子、とか



「 そういえば、浅葱だっけ?カイルとリアラが話してるときにでてくるのってあんたのことよねえ 」

「 さあ?浅葱って名前は確かだけど 」

「 交換条件にしては少し甘いけど的確だったわ。刀と沈黙。どちらにしろ、アンタの身体の一部が必要なことばかり 」

「 褒めていただいて光栄だよ、ハロルド 」

「 隠し切れない事だってあると思うけど、それでもいいの?嘘吐き呼ばわりされるわよ? 」

「 そういわれる頃にはきっと、此処にはいないさ 」



ばれてしまった時にはこの世界にいるかどうかもわからない。だからこそ今だけはばれないように今だけは嘘吐きって言われないように。
皆か空回りしてくれるような嘘をポンポンと吐き出しながら、本当を守り通す。



( 最後の発言にアーチェが茶化すように体重を聞いてくる )
( だから、測ってないから余計にばれたくないよねえって話を合わせて )
( 消えることを頭の端っこに追いやった )

11/0129.




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