「 見つかたか。相変わらずのノホホン面ゾな 」

「 相変わらず鼻の充血っぷりが見事ね。ちゃんと角栓を取って清潔にしないと、イチゴにしか見えないわよ 」



少し後れて入ってきた私は、本日をもって、いや、正直初めてショー…ショー、ええと、ショー、ロンポウ?とまあ、小龍包を見たわけなんだけれども、画面の前とは違う迫力だ。一歩間違えればこの男、いや性別もよくわからないくらいジャムおじさんに似ている気がする。丸さか?丸さなのか!?



「 やかましいゾな!…一緒に来てもらうゾな 」



怒られた!私か?私なのか!?
丸さとか言ったから、もしかして以心伝心のような感じで伝わってしまったんだろうか!



「 おまえが受けた依頼で作た薬、全部失敗だたんだからな!責任もて治療をしてもらうゾな 」

「 え?治す薬?ほっとけば治るわよ。あれ、まだ実験段階だったんだしさ 」



しまった。いらないところで被害妄想チックになってしまった。しかも心の中でずっと呟いているだけだから誰も突っ込みくれなくて少し寂しい。なにはともあれ、苛立っている小龍包は横に稲妻模様をえがいた白い髭をなで、ハロルドをみていた。



「 完成してなかったのに、勝手に報酬渡してきてさ〜。あら、もういいの?って感じ 」



指先がそっと握られるような感覚に手からもう一つの手を辿るとエールが不満そうというか、居心地の悪そうな表情をして私に寄り添っている。その頭は妖怪アンテナのようにピンッと張っていて、アホ毛というよりも、妖怪アンテナのようだった。つまり、あのジャムは妖怪なんだろうか?いや、納得するよ!言われて見ればそう見える!

名前 妖怪髭伸ばし



「 それよりさ、決めちゃった。私、ここで研究させてもらうわ。リアラとカイルは助手という事でよろしく♪ 」

「 はぁ!?なんでそうなるんですか! 」

「 へー、御宅が管理するんなら、部下の不始末として金下さいゾな。賠償金て奴ゾな 」



チャットが深いため息をつき、板ばさみ状態で不満そうに眉間に皺を寄せる。妖怪髭伸ばしは黒いサングラスらしきもので覆われた目を顔ごとこちらに向けて私をゆっくりと指差し、え?



「 嫌なら、あの男と交換するゾな 」

「 …男? 」

「 そ、そんなことできるわけ…!浅葱さんだってこのギルドの一員なんです、 」

「 …ちょ、男って私の事かよ!! 」



着物か!?着物だからいけないのか?!私はいたって普通に、というか着物って身体のでこぼこわからなくなるし、まあ、うん。しょうがない、よね。妖怪に区別なんてつく訳ないしな



「 まあ、私一人で構わないなら 」

「 だ、駄目ですよ!何を言ってるんですか! 」

「 それだったら、どうするんだよ 」

「 …わかりました。ボクが立て替えておきますから、ここで働いて返すように 」



ムスッとしたままそう答えたチャットはやっぱり子供の表情だった。正直、妖怪の手下となると複雑だけれど、元から此処に居なくても良い存在だと思いだすとそれでも構わないかなあなんて思ってしまった。矢先にエールにつかまれている手が痛いんです。多分、怒ってる。凄く怒ってるよ、これ!



「 じゃあ、その迷惑女はもう返してくれなくていいゾな 」

「 ご心配なく、帰らないから 」



そういうサラサラという会話を交わしている妖怪髭伸ばしと天才科学者。
その後ろで物凄く怒ったまま私の指をつぶさんとばかりに、握っている救世主。



「 …お姉ちゃん? 」

「 ……いや、冗談だって 」

「 うそだよね? 」

「 ………え、っと 」

「 仲直りしたばっかりなのに、いなくなんて、ならないよね? 」



泣きそうな声に振り返ると少し俯いたままで、私の事を「おねえちゃん、」と呟く。
私は当然その声に勝てるわけがなくて、



( やくそく、だよ? )
( …うん )

( 何度目の嘘を、この子につけばいいんだろう )
( せめて、この子の目の前で消えることがなければいいのにと、思うだけで )

11/0129.




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