こっそりと抜け出すように廊下を駆け抜けて、いつもみたいに甲板に飛び出して寝転がると沢山の星が色んな風に輝いていて綺麗だった。黄色く見えたり赤かったり、蒼かったり。あの子みたいに、真っ白だったりして。部屋まで運んだら、今は傍にいないほうが良いと皆に言われて結局追い出されてしまい、あの子の部屋の前には私が近づかないようにと交代で見張りがいるほどだ。一体何があったって言うんだよ、くそう



「 なーにしてんの 」

「 なんだ、ゼロスか 」

「 なんだって酷くない?俺様傷ついちゃう 」

「 そう 」



よっと。と、軽く隣に座り込んだゼロスの髪が暗闇の中で赤がほんのり照らされたように映った。明るい赤い色は黒に消えないのかもしれない。だなんてどうでも良い事を考えながら、横に転がって距離をとる



「 エールちゃんよく寝てるってさ 」

「 …そ 」

「 浅葱ちゃん、凄く取り乱してたよねぇ。俺様があんな怪我したら、取り乱してくれる? 」

「 …ゼロス、 」

「 ん?何々?俺様のこと心配してくれるんだったら大歓迎!もうチューの一つくらい余裕でプレゼン、ト 」



泣き出してしまいそうな目元を必死にこらえてニッコリと笑った。この男の前で泣きそうになるなんてどうかしてる、と自分自身を貶しながら引きつりそうな口元を笑みに変えて



「 心配してくれたのはゼロスでしょう?本当に、この船の人はお人よしなんだから 」

「 浅葱、ちゃん? 」

「 私はゼロスに気にしてもらえるほどの価値はない嘘吐きだよ。ジェイドの笑みよりも、ゼロスが女好きでも笑顔の使い分けをしているのよりも 」

「 ! 」

「 大嘘吐きに構うのなら、純粋無垢な小さな少女のところに行くべきだ 」



突き放せ、突き放せ。そう心が急ぐ。
この色ボケ神子は妙に鋭く、エールのときも何か見えていた。としたら、私にも何か見えている可能性だってあるんだから。



「 私は、お前の事が、嫌い 」



震えそうになった唇をゆっくりと噛んで、睨みつけた。ただ、そう呟くようにその青い瞳を精一杯睨む。近づくな私のところに来るな。そう全部の意味を込めて。絶対に、寂しいとか悲しいとかなんで此処にいるんだなんて、混ざらないように精一杯、睨む



「 そんな可愛い顔で睨まれてもぜーんぜん怖くないし?逆に泣きそうな顔が引き立って、困っちゃうなあ 」

「 触るな!私は、お前が、 」

「 んー、なに? 」

「 大ッ嫌いだ! 」



私に伸ばされた手が私の頭の上でそっと触れた。寝転がったままの私と、隣に座ったまま頭を撫でてくるゼロスの手。



「 ま、俺様は嫌いって言われても嫌いになれないぜ? 」

「 何で、ゼロスは傷つきたいだけなのか?私は嘘吐きなのに。この名前もなにも嘘の塊を嫌いにならずに、お前は、 」

「 浅葱ちゃんの嘘が神子である俺様に通じると思う?少なくとも、嘘は大体わかるし、何よりもジェイドのヤローもわかってんのよ、それ 」

「 …ん?何をわかってるんだって? 」



唇が、震える。
あの赤い目も、この青い目も、何度嫌いといえば良いんだろう



「 ユーリくんも、気付いてるし 」

「 っ 」

「 ガイくんも、スパーダくんも、勘の鋭いのは気付いてるみたいだけど。浅葱ちゃんはさ、どうしたいの? 」

「 どうするもなにも、なんのことだかわからないな 」



嘘に気付いた人が沢山いる。それは確かな事で、なによりも
気付いたメンバーがいつも話してる様な人達で、それで、私に踏み入ろうとした人達で



「 でも、 」

「 ん〜? 」

「 ジェイドのことだから、もう調べちゃってるんだろうなあ 」



いろんな国の住民票とか、全部全部。考えるだけで頭の痛くなりそうな問題ばかりでエールがいつ目が覚めるんだろうかとか、皆に聞かれたらどう誤魔化せば良いんだろうとか考えるだけで、苦笑しかでてこないや



「 認めんの? 」

「 どっちでもいい、の方が私らしいと思わない? 」

「 …まあ、ねぇ 」

「 それに、私には時間がないから。今更って感じだよ 」

「 …それって、 」

「 さーって、ちょっと夜の散歩してくる 」

「 ちょ、えええ?!浅葱ちゃん?! 」



ねえ、神子のゼロスはさ
いくら不良って言ってても、見えてるんでしょう?



( 不意に襲う吐き気に、船を無理やり飛び降りて陰に隠れる )
( 蛍みたいに点滅する腕を抱きしめて )
( 色が消えていく髪に、生暖かい何かが流れ落ちた )

11/0124.




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