カノンノにつれられてやってきた船。バンエルティア号は画面でみるよりも色が鮮明で今の現状を忘れるほどに綺麗だと思った。綺麗だからこそ忘れそうになるその船に乗った時、パタパタと音が聞こえて視線を向ける私にその生き物は微笑んだ



「 カノンノ、この方は? 」

「 浅葱って言ってね、アメールの洞窟に居たんだけど記憶が曖昧らしくて 」

「 まあ… 」



驚いたように口元に手を当てた猫のような生き物、パニールに私は少し目を向けてから頭を下げた。なんだか記憶もぼんやりするどころか夢の中にいるようなふわふわ感と現実だと理解した頭と心の真逆な鳥肌が立ちっぱなし。本当だなんて理由も理屈もない世界にいるようでなんだか吐き気がする



「 浅葱さん、顔色が悪いようですけど大丈夫ですか? 」

「 …ああ 」



まさか、自分…船酔いしたんじゃ…。いや、そんなことは、でも私も人間だし船酔いしてもおかしくはないか。船の上って感じはしないんだけど確かに地上とは違う揺れがある気がする。斜めとか。



「 ふむ…確かに、本人も凄く動揺しているようですね 」

「 というか、コイツはただ呆然としているだけだろう!ちゃんと見てみろ! 」

「 そうですか? 」

「 これだから、子供ばかりのギルドなんて、 」



ぶつくさ言う青髪の学生服というよりかはローブのような学生服を身にまとったキールがそういった。大きすぎやしないかと思うようなキャプテンハットをかぶった金髪碧眼チャットが「うーん」と私を見ながら唸るけれど、なんだか品定めをされているようで嫌な気持ちになりそうだ。



「 おい、何とか言ったらどうだ 」



と、言われても今の事実でもうお腹いっぱいなんですけど。目の前でキールが睨んでくるけれども私は知らないうちに記憶喪失疑惑でもおきているような、いや多分似たような事がおきているんだなあって事を呆然と頷くしか出来ないような私に彼は一体何を言えと。



「 じゃあ、何か言ったら現状が変わるか? 」

「 お前の意見で多少は、 」

「 その多少で何が出来る? 」



ああ、もう私は完璧に嫌なやつだ。自分が此処にいる理不尽さ、どうしようもない気持ちをキールにぶつけたってしょうがないのはわかっているのに、今にもこの茶番のような状況に笑ってしまいそうだ



「 キール、浅葱だって混乱してるんだよ 」

「 だからってコイツのこの言い方は…! 」

「 浅葱もそんな無愛想じゃなくて、ほら、笑って 」

「 …笑えない 」



今笑えばきっと今フォローを入れてくれた緑色の髪の少女、ファラの言葉を無駄にするように狂った笑いしかでてこないから。これ以上喋れば確実に、この青年の言葉を叩き潰してしまいそうなほどに頭の回転がおかしなほどに速い。残念ながら嫌な言葉しか出てこないけど



「 浅葱さん 」

「 何? 」

「 此処で働くというのならば、保護して差し上げます。思い出すまで好きなだけいてくれても構いません 」

「 こんな得体の知れない生き物を? 」



自分で言うのはなんだか変な感じがするけれども、確かにそれは間違いじゃない。その生き物をキールが疑うのも当たり前で。そう思うとなんだかイライラしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えるのは何でだろうなあ。



「 働く事前提で、ですが 」

「 …働くって主に何を? 」

「 手を出してください 」



ガチャンと雑に扱われた刀が手から腕へとずしりと重みをかけてきた。さほど重くはないけど。
打刀と脇差。それと懐剣。まさに和だが、これは表に出ろという事なんだろうな。家事とかがよかったのに



「 …練習すればなんとかなるか 」

「 さすが!男らしい判断で助かります! 」

「 は? 」



今、この少女は何を口走った?



「 頼りない人ばかりのなかでやっとですよ! 」

「 何がやっとだ。こっちだってギルドになんて付き合わされて散々な目に… 」

「 いいじゃないですか、やっと頼れる男性がはいったんです!喜びましょう! 」



男性?なにそれ、私?いや、男って部類ならほかにもいるだろうけど、ビシィっと指を出しているチャットの指先を見えない線で繋げばあら不思議!どうして私に繋がるのかを本人に説明していただきましょうか。それもゆっくりと



「 なあ、船長とやら 」

「 何ですか?浅葱さん! 」

「 私は女だ 」

「「 はあ!? 」」

「 おい、そこの赤毛。それと青髪学生。後で覚悟しとけ一発ずつ殴ってやる 」



赤毛というのは腹だし赤毛のリッド。青髪学生はキールのことだ。だって名前聞いてないんだから名前は呼べないのだから名前呼びは我慢我慢。



「 めんどくさくなってきた。あれこれ悩んでたら頭吹っ飛びそうだ。そこの青髪学生よく聞いておけ 」

「 …偉そうに言うな!僕は、 」

「 私は、浅葱。見ての通りの人間だ。記憶はまだない。そのうち帰ってくるだろう精神で乗り越える。あとは、このギルドとやらにはいる事にした。よろしく頼む 」



ギルドとは、人の依頼をこなす仕事。ある意味万事屋と似たようなものがある。それをこの世界グラニデではギルドと呼ぶならば



( それが生きるためならば )
( 帰れる手がかりが探せそうなら )
( まずは、寝床と食事を手に入れる )

10/0812.




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