「 リフィル先生 」



エールがそうリフィルを呼んで、彼女は首をかしげた。機材を両手に抱えたまま、手を上げたほうがよかったかな。うう、と呟いているエールに鼻の下が伸びそうな私は小さく咳き込んだ。あと少しでも反応が遅かったらクラトスがこっちを向いていたかもしれないと思うと微妙に、セーフとポーズをとってしまいたくなる。最近正直だな、私



「 なに?エール 」

「 どうして、ラルヴァが重要になの? 」

「 それは、世界的な総マナ消費量もここ近年、増加し続けているし。実際、マナも現象しているのよ… 」



少し考えたように、顎に手を置くリフィルはやっぱり知的だ。いまそんな事を言ってしまったらクラトスとリフィルに呆れられてしまうんだろうけれど。



「 世界樹のマナの恵みが足りなくなってきているの。供給が追いつかなくなって来ているのね 」

「 人が、世界樹を必要としなくなったのかなぁ…? 」

「 でも、マナがないからといって、世界樹を敬わないだなんて冷たすぎると思うわ 」



でも、ずっとあるものをないがしろにするのも人なんだってエールは知らなきゃいけない。それに知っている人達は思い出さなくちゃいけない。そして、そうされてしまった意味も。新婚から熟年の冷め具合と同じだと思ったらいいのかもしれない。うん、リアルすぎて想像したくないや



「 とにかくマナによってもたらされていた調和が失われつつあるの。それがどんな結果を招くのかわからないわ 」

「 うん? 」

「 だから、それを危惧するナディの主張もわからなくはないけど…ね 」



すいません、先生。うちのエールの頭の中ですでに整理整頓が間に合っていないんですが!今の『うん?』は、確実に『どういうこと?』という意味だと思います。先生、ちょ、ちょっとまって、先生!



「 とにかく、安定した世界の為にもラルヴァのような代替エネルギーは必要よ 」

「 ほんとうに? 」

「 ええ。科学や文明の発展は試行錯誤の果てにあるものですからね 」



いまの会話でエールがどれだけのことを理解できたんだろう…。あとで教えてって言われて軽く説明できる気がしない。何処から説明したら良いものか。むしろディセンダー、それでいいのか!それで世界救っちゃって良いのか?!お姉ちゃんは心配だよ!?



「 それと、浅葱少しいいかしら? 」

「 ん?ああ、構わないが、クラトスそこから3m先に行ったらエールが泣くからな! 」

「 …ああ 」



いつもの中距離型ではなく今日は妙に張り切っているようで開始地点で待ち伏せして相手をボコボコにいているクラトス。多分お父さんとしてエールを守ろうと必死なんだろうけれど、今日は私をも庇ってくれてなんだか不思議というか、助かってます。ありがとう、お父さん!



「 ラルヴァについての資料を読んで不思議に思ったのだけど 」

「 ん? 」

「 生成の為の機材と使用方法しか書いてないの。特別な材料は必要ないらしいのよ 」

「 …ほう 」



自然から力を得ているからね。それに負を使っているのだから、集めようと思えば集められるってことなんだろう。そんなことは口が滑っても言えないので、差し当たりのない言葉を言うとリフィルが頷く。



「 不思議でしょう?今運んでいる生成機材だけで出来るものかしら 」

「 不安? 」

「 …そうね。試行錯誤とも言ったけれど、こればっかりは急がないといけないもの 」



しっかりと前を見据えたようにリフィルがそういった。私はただ頷くだけで、前を見ることは出来ない。ただ、ほんの少し俯いてこの先の展開にまた、目を瞑る覚悟をするだけ。記憶を何度も、何度も繰り返すように、そっと目を瞑った



( 浅葱?気分でもよくないなら、 )
( いや、目にゴミが入っちゃったみたい。今、とれたけど )
( ここは砂っぽいもんね。砂粒とか目に入っちゃいそう )
( これをつけるか? )
( それブラックアイズ!目隠ししたまま戦えません! )

11/0123.




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