「 さあ、実験にふさわしい場所を探さなくては 」



鉱山内でそう力強く呟いたリフィルを横目にエールが頷いた。私のクラトスは主な機材を持っていて歩くたびに音が鳴る。別に苦痛とかではないのだけれど、クラトスの心配そうな視線が私とエールと交互に移動するから少しだけ、子供を心配する親みたいで微笑む



「 ラルヴァが民衆にとって、益になるものかどうか…。これでかなり判明するはずよ 」

「 そうだね 」



大切なのは、危害がなくて益になるもの。いつだってどの世界に住む人だってそれを追い求めて何度も実験と間違いを繰り返すから、大事なものが生まれる。これはどこの世界に行っても変わることなんて無いんだろうな。そう思って足を止めると上から声が聞こえた



「 浅葱、大丈夫か。重いようなら、持つが 」



機材がカチャカチャと音を立てる。そのたびに大切に扱いなさい!と持つ前に受けた注意を思い出して背中に、どこぞの童話のたぬきのごとく、火をつけられてしまうんじゃないかと思うような背負いっぷりにクラトスが声をかけてくれた。正直クラトスのほうが恐ろしいくらい荷物を持っているんだし、これ以上甘えてしまう訳にもいかない



「 大丈夫、たくましくならないとやっていけないしな 」

「 …そうだな 」

「 クラトス? 」



もしかして私に良いところでも見せたかったんだろうか?少なくともエールとリフィルの機材は予定の半分になっていて、軽くなった分は全てクラトスが請け負っているのにこれ以上の無茶なんてさせたくはないし、逆に機材の音で煩いクラトスの戦い方なんて見てしまったら、3分は確実に笑い転げてしまうのも既に想定内だ。だが、見たいかと聞かれたら全力で頷くけどね!



「 浅葱、 」

「 なんだ? 」

「 …お前は 」



魔物の拠点を潰すように、その開始地点に立って盾と剣を器用に使いこなすクラトスの姿は私の壁になっている。



「 まだ、ヒトリなのか 」



後ろで後方支援を担当している二人に聞こえないような声でクラトスが呟くように、優しい声で誰かを諭すように言いながら、剣が敵へとむかう。『まだ、ヒトリなのか』と、誰に聞いたのかわからないような響きで、私に聞いた



「 心以外は、ヒトリじゃない 」

「 それを独りというのだろう 」

「 身体としては団体にいるから一人じゃないけれど、心は孤独という意味で独りだね 」



言えない大切を隠したままだから。
心は独りきり。



「 でも、それを聞きたいのは、私にじゃないとは思うけど 」

「 どういうことだ 」

「 自分に聞くための質問を私に聞くのは卑怯だよ 」



ただの勘だけど、私は戦う手をやめず前へ前へと進んでいくクラトスの大きくて寂しそうな背中を見つめて、ゆっくりと口を動かす。



「 クラトスは、ヒトリなの? 」

「 私は、 」

「 私はね、こうやって心を聞いてくれるから、クラトスはヒトリではないとは思う。多少の孤独があったってそれは普通なことだし、永遠に満たされるなんてないから 」



それでもね



「 寂しくないって、思いたいからきっと聞いちゃうんだろうって、思いました。はい!戦いに専念しまーす 」

「 浅葱!機材には気をつけて! 」

「 身体を張って守り通しますっ 」

「 お、おねえちゃん、傷つくっちゃやだよ!? 」

「 HaHaHa、傷は勲章さ! 」



腰にある刀の柄を握ってクラトスと同じ位置に並ぼうとすると声が聞こえた。それは確かにクラトスの声で、『大切』を大事にしようという今までで一番優しくて、ロイドにも使ったことのない声なんじゃないかってほどの



( 4000年も生きてるのに何言ってんだかね )
( 未熟な人間は、私だけなのに )
( だって、今でも鞘から刀身を抜けないのだから )

11/0123.




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