甲板でぼうっとしていると、視界に入った桃色と黒髪。自然と視線で追って二人だけの空間を見るとなんだかお似合いというか、美男美女うまー。じゃないや、なんかあっさり煩悩が動いていたけれど、主人公とヒロインが揃ってる!遠くから見守っていた方が絶対に安全だな。それに目の保養になって物凄く、あれ?いない?



「 何ジロジロみてんだ? 」

「 何かついてましたか? 」

「 額縁が 」

「 自信満々にいうことじゃねえだろうが 」



すっと前に現れた二人に私が瞬時に本音を吐いた。いや、この二人のセットなら額縁とかついてたっておかしくないよ!私が保証するよ!でも、一人でも絵になるやつとかいるけれど、これは二人でセットだ!



「 え、えっと、わたしお邪魔ですよね、その、 」

「 エステル、違うよ。邪魔なんかじゃない。だから、 」

「 し、しつれいしました! 」

「 ちょおおおおおおお!エステルうううううう!! 」



叫んでは見たものの一度も振り返らずに走り去るお姫様エステルはやっぱり走り去り方も花びらが飛んできそうなくらいお姫様だった。視界内で黒髪が揺れて隣でため息をつく声とトンッと寄りかかる軽い音が聞こえて視線を向ける



「 追いかけろよ、王子様 」

「 オレはアイツの王子じゃねえよ。それに王子って柄でもないの 」

「 どうだか。案外似合うと、思うけど?『おうじさま』ってやつ 」



王子様、ねえ。と濁ったように呟くユーリを見てみると、アメジストの目が私を捕らえた。あの時と同じように、今度は私が逃げないように腕を伸びる。あの時はエステルを守る為。真逆のようで、何処か似ているその動きにゆっくりと視線を、落とす



「 理由以外のことを、聞いて良いか 」

「 うん?私は記憶喪失だからな。答えられる言葉はわずかだとは思うが 」

「 この間の現象の原因は、わからないんだよな? 」

「 そうだね 」



侵蝕してきてるとか、実はわかってるとかは何も言わない。他の世界から来たせいで此処から消える時間が迫っているから侵蝕するように消えてきているとか、何も言えないんだ。仮説ばっかりで、正解が何もないから



「 あれは、 」

「 なに? 」

「 痛いんだろ 」

「 さあ? 」

「 嘘つくな。じゃねえとあんなに怯えたようにオレを見なかっただろうが 」



色が強くなる瞳に、私はゆっくりと作り笑顔を浮かべた。視界を細める事でその目から逃れて罪悪感からも逃れてしまいたかったから。嘘をつきやすい環境を、こうやって作るしか今はできなくて



「 ユーリ、知ってるか? 」

「 話をそらすなよ 」

「 世界中の皆が『嘘吐き』って言葉を使うけれど、嘘吐きの本物って言うのは大きな本当を隠す、あるいは護る為に小さな嘘をばら撒いて種明かしをさせるんだ。満足感に浸った人はソレで満足するからな 」



ユーリが瞬きをする瞬間に、彼の作った狭いスペースから飛び出す。その大きな背中に触れないように少し背伸びをして囁くように笑った



「 つまり、自分を護る為に人は嘘吐きになるんだって、知ってた? 」



驚いたように振り替えるユーリの表情は少ししか見えなかった。ソレは私がその顔をずっと見ていたら自分の本当を言ってしまいそうだったからで、自分の仮説を誰かが立ててしまうのが嫌なのだ。それが、本当だとしても、信じたくない。わがままだとしても。



「 浅葱ー、少しいいかしら? 」

「 今、行く 」



振り返らず、呼ばれたほうへ歩けば後ろから足音は聞こえなくて、ほっとする。
このまま彼は安全地帯にいてくれればいいんだ。わざわざ私のほうへ踏み入ってこないで欲しい。くれば、確実に彼を傷つけて私に近寄らないようにしなくちゃいけないんだから



( 嘘は無条件につけるものじゃないんだよ )
( 嘘で自分を縛り付けて、戒めるためのもの )
( そして、後で傷つくのは、嘘吐き自身 )

11/0122.




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