ホールの机を一人で占領して小さな背中で隠すように腕をうごかすエールをずっと見ているんだけれど、これは一体何をしているんだろう?壁に寄りかかりながらじいっとその背中を見ていると、見えたのは小さな箱。色とりどりのチョークみたいな形をした原色に紙がまかれていた。あれって、俗に言う『くれよん』とかいうやつじゃなかったっけな?



「 絵を描いてるの? 」

「 わ、わわ!お、おねえちゃ、え、えと、あ、う、うん、 」

「 エール? 」

「 ま、まだだめ!だめなの!お、おねえちゃんはあっちいってて! 」



心が傷ついた。というか、あと一言でも言われたら泣いてたかもしれない。今だって油断すればこみあげくる涙をこらえるのは必死だ。あっちいってて、って年頃の娘が父親を追い払うように言われてしまったんだから、もうお酒片手に泣いてしまおうか。うう、邪魔って思われてるんだろうな、



「 なァに、へこんでんだ? 」

「 す、スパーダ。どうしよう、そのうちエールに『お姉ちゃん、ウザイ』とか言われたらああああああああ!考えただけで泣きそう、どうしよう、無表情で『死ね』とか言われたら、あ、あうう 」

「 ちょ、落ち着けって!そんな事いうはず、 」

「 は、はず? 」



ないって、ないって言ってスパーダ。お願いだから、ないって、そんな事ねェよ。っていつもみたいに、いつもみたいに?あれ、コイツ、そういえば趣味はルカ弄り、で、あ、れ?



「 あるに決まってんだろ? 」

「 う、 」

「 もしかしたら、ウザイや死ねどころじゃないかもしれないぜ? 」

「 や、やだ…!エールに消えろとか言われたら、本気で飛び降りるし、うわ、遺言とかどうしよう 」

「 スパーダ、あまり浅葱を苛めるのは良くないぞ 」

「 つーか、何で落ち込んでんだ? 」

「 浅葱ちゃんが落ち込むとか珍しいけどねえ 」



他にはユーリとかガイとかゼロスのいつものメンバーが集まってきたけれど私は壁に身を預けたまま。ところで遺言って残した方が、ウザイとか思われてしまうんだろうか。最後くらいは、おねえちゃんだいすきだよとかいって欲しいし、だからと言って何も残さない訳にはいかないような、



「 大ッ嫌いとか、言われたりしてな 」

「 ………もういっそ誰か殺してくれ 」

「 え!浅葱ちゃん!? 」

「 は、早まんなよ! 」

「 そんな事言われて無いんだろう?だったら、気にしなくても 」

「 大好きの次は、だいっきらいか…はは、あはは、 」



お姉ちゃんがふがいなかったんだよね、ごめんね、エール。何を書いているのか大体想像ついてきたよ、お姉ちゃんを殺そうとしているんだね。確かになんとなく自分は悪の元凶じゃないかって思っていたところだから問題ないよ。でも、最後は嘘でも大好きって言って欲しいな、この願いもだめだったら、何も言わず秘奥義



「 あああああ!す、スパーダ!わたしやルカだけじゃなくて、お姉ちゃん苛めちゃダメ!ぜええええったいだっめええええ!! 」

「 は?お前が傷つけたんだかんな 」

「 え?わたし? 」



くりくりお目目を私に向けて首をかしげたエール。私は壁に身を任せたまま、良い人生だったな。最後に良い夢も見れた、と呟くとエールが白い画用紙を私に向けてくる



「 お、おねえちゃん、 」

「 …今ならどんな暴言でも受け止めて見せるよ、エール 」

「 あ、あのね、浅葱おねえちゃん、これ 」



そっと渡されたこれにはどんな暴力表現が描かれ、



「 上手にかけなくて、あの、 」

「 エール 」

「 でも、おねえちゃんのことは大好きだよ?でも、上手くかけなくって、その、えっと 」



幼稚園生が書くような、いびつな輪郭。
くれよんを使うのが初めてだってわかるような線。

そして、



「 だいすきだよ、エール。私は、エールがすき、だいすき、あいしてる! 」

「 わたしも、おねえちゃんのことあいしてる! 」

「 I love you! 」

「 え?あいらーぶ、ひゅー? 」




( その絵があまりにも優しくて )
( 衝動的に抱きしめるとあの子が言ったの )
( ずーっとだいすきだよ、おねえちゃん )

11/0122.




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