「 浅葱おねえちゃーん 」
男物と女物の洗濯物を私とユーリで分かれて干していたのだけれど、遠くから声がして視線を向けると砂浜の上で大きく手を振るエール。私も急いで洗濯物を洗濯バサミで止めて大きく手を振り返すと、エールの目が細められて嬉しそうにはにかんでいた。くそう、可愛いな!やっぱり犯罪みたいだけれど、あの子かわいいな!ああ、もう!
じゃなかった。危ない危ない…
「 あれ?エール? 」
「 それとユーリ! 」
「 おう 」
「 ちょっと待て、今の流れは自然だったか?むしろ、何故キサマ、
うちの娘と仲良しフラグ立ててんだ! 」
妹が娘になりました。いや、そんな差は対して大きくないね!私が育ててるような気もするから娘って言うのも間違いじゃないはずだ。そしてこれは大した問題ではない。私の隣で空っぽのかごを持って待機していたこの黒髪イケメン青年こと、ユーリが何故私の後ろに立ってるとか色々聞きたいことあるんだけれど、いつ仲良くなりやがったこのやろう!
「 ということで、説明をお願いするぞ、ユーリ 」
「 はあ? 」
「 うちの娘といつ仲良くなったんですか? 」
「 仲良くなったつーか、あれだな 」
「 どれだ 」
「 ギルド内で自己紹介くらいすんだろ? 」
「 ああ、それか 」
すれちがいざまによろしくパターンなんだろう。廊下とかホールでのすれ違いざまに「へい!ゆー!ないすちゅーみーちゅー!」みたいな感じなんだろうな。しかし、心の中でさらりと噛む私は器用なのか、不器用なのか…。ちゅーってなんだよ、もう
「 おねえちゃん、おねえちゃん! 」
「 なにー? 」
「 これって、砂だよね? 」
「 そうそう。砂!砂が広がっていてかつ海がすぐにある場合は大体砂浜っていうんだよー! 」
真っ白いシーツを干しながら声を出すと遠くの方からエールが「わかったー!」と返事をするのが聞こえて微笑む。ふと隣を見ると同じくシーツを干しているのに、私のほうを見ていた
「 なに? 」
「 …昨日のこと、聞いても良いか? 」
控えめに尋ねてきたユーリの表情は少し険しくて、それでも私の手は止まらずにシラを切るように洗濯バサミで止めていく。
「 聞かれることなんて何もないけれど 」
「 ホールが暗いときに、 」
「 ああ、寝起きか 」
「 茶化すなよ 」
「 すまない。それで、暗いときに? 」
口先だけでペラリと喋っていることぐらいもうばれているんだろうけれど私は白を並べていく。青い海を背景に干されるシーツは爽快だ。夏にこういう絵を飾ったら空気が爽やかになるんじゃないかってくらい
「 透明だっただろ 」
バキ、と洗濯バサミを音を立てて崩れた。古くなってたんだな、私の耳も、この洗濯バサミも。早く付け替えなくちゃ。新しいのを買いに行くのにチャットに申請して、それでほかに足りない調味料とかあった気もするから、あと、ブルータリスマンと
「 え?気のせいじゃね? 」
「 じゃあ、壊れた洗濯バサミはどう理由をつけんだよ 」
「
夢の欠片が壊れていきました 」
「 話をそらすな 」
「 ユーリ、 」
紫の視線が私と合わさる。
誤魔化すのすら、辛くなったらここから逃げ出してしまうかもしれないとしても
「 君には関係のない話さ。君も此処に逃げ込んだきた理由を話さない。私も、あの現象の理由を話さない。対等だとおもうけれど? 」
「 それ、は 」
「 追い討ちを掛けるようできついかもしれないけれど、人の深みに入ることはそれを背負う事になるくらい、わかっているんだろう? 」
だから、秘密。機密。
ゆっくりと目をそらしたアメジストに私は「それでいいんだよ」と笑みを浮かべる。寂しい事を言っているのも何もかもわかっているつもりだけど、こればっかりは巻き込みたくはないし、深入りされても困ってしまうから。そっとユーリをセーフティゾーンに追いやる。どうか君が傷つかなければいいなんて、思ってしまう私も、甘いんだろうけれど、
「 おねえちゃーん! 」
無邪気なその声に振り向けば、
「 だ い す き ー ! 」
砂浜に大きく書かれた私の読めない文字が、波によって半分消えていた
それでも伝わるのは、( 笑顔と沢山の、愛、哀、アイ、I )
( ありったけの感情を込めた )
( Iへのメッセージ )
11/0122.
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