「 妙な船とは失敬ですね! 」



その声と一緒に明るくなるホールに目を細めると「おや?」と陰険眼鏡の声が来て目を細めたまま視線をやるとその赤い瞳がゆっくりと細められた。眩しくて目が痛い。目の裏側がチクチクする。待ち針でチクチクされてるみたいだ。



「 まあまあ、船長…。船の価値は見た目だけではありませんよ。それと、浅葱 」

「 …なんだ 」

「 うっかりそこで寝てしまったんですか? 」

「 多分、そう、だと思う 」

「 風邪を引かれると迷惑なのでちゃんと部屋で寝て下さいね 」

「 うん、 」



少し考えたように返事をしたまま壁に寄りかかり、二組の間に立つ。アメジストの瞳が明るさになれてゆっくりと目を開き、ピンク色の髪の子が後ろのほうから凛とした姿勢で歩き、彼の隣に並ぶ。



「 それで、あなた達はどちら様でしょう。ひょっとして依頼をしに来られたんですか? 」

「 依頼…って…。あの、ここは一体…? 」



サラっと揺らした肩上の髪がつやめく。首をかしげた桃色の髪の女の子は戸惑うような表情をして視線をゆらゆらと左右に動かす。動かなかったのは黒髪の青年のほうで、話を聞きながらか私のほうをみている。多分、さっきのせいなんだろうけれど、ちょっと照れるな



「 ここは、バンエルティア号。漂泊のギルド、アドリビトムの本部ですよ。そしてボクが船長のチャットです 」

「 私はジェイド。どうぞお見知りおきを 」

「 先ほど呼ばれたとおりの名で、浅葱だ 」



フードを深く被ったままそう告げる私に、アメジストがやっと動く。透明な紫の瞳が妙に落ち着いたまま見透かしてくるような目が離れて方の力を抜いた



「 ギルド…だと?こんな所で活動してるとはな 」



視線がジェイドのほうに移り、ジェイドといえば私が呼ぶあの名のようにニッコリと笑みを浮かべすらりとしたフレームの眼鏡を押し上げている。黒髪青年は怪訝な表情でソレを見つめ、怪しむというか、珍しいものって全部怪しいよね!だから、そんな目で私を見ようとしないで下さい、お願いします



「 ちょうどいい。匿ってもらえないか?オレはユーリ、で、こっちは… 」

「 あ、あのエステリーゼって言います 」



控えめに挨拶した少女は、どこか綺麗に見えて気品に溢れるという言葉が似合う。さっきから姿勢は崩れず、スッと見据えたような真っ直ぐで透明な視線が私に向けられない事を祈るばかりだ。その目はエールに見つめられてるみたいで負けそうだから



「 依頼という事ですね!いいでしょう、引き受けました! 」

「 素性も聞かないんですか? 」

「 船長の言うことに従えないと? 」

「 はいはい、アイアイサー 」



棒読みのアイアイサーを聞きながら手の感覚をポケットの中で確かめては見るけれど、なんとも言えない痺れが残っているようだ。髪の毛は痛みとかはないんだけれど、確かめにくい。どうしよう、これ



「 依頼…って、つまり金がいるって事か? 」

「 持ち合わせはあまりありませんけど…、こういう場合、どうすればいいんです? 」

「 なるほど。…では、こうしましょう 」



落ち着いたチャットの声が妙に弾んで聞こえたのは私だけじゃないはずだ



「 ギルドの構成員になるのはどうです?働きながらほとぼりを冷ませばいいんです。もちろん、追っ手からは保護しますよ 」

「 まあ、そんなところですね。どうです、ユーリにエステリーゼ?この条件飲めますか? 」



人当たりの良さそうな作り笑顔を浮かべたジェイドにエステリーゼが、いや長いな。エステルが視線を、ユーリに向けるとユーリがゆっくりと口元に笑みを浮かべた気がした。



「 ふーん、悪くないな。いいぜ 」

「 あ、あのユーリがそう言うんであれば…。はい、わたしも… 」

「 決まりました!これでまた子分が増えましたよ! 」



手をパン、と合わせて目をキラキラと輝かせたチャットにエステルが「 こ…ぶん…? 」と首をかしげるけれど私はソレにため息をつき。ジェイドが軽い笑い声を上げる。傍から見れば変な光景なんだろうけれども。



「 はい、ようこそ。海賊チャットの一味へ 」

「 いらっしゃいませー 」

「 か、海賊…ですって? 」

「 なんか、やっかいな所に飛び込んじまったようだな… 」



二番目のいらっしゃいませは私だ。驚いた二人の声にポケットから手を出し、フードを取るといつもどおりの指と髪がでて、アメジストが目を見開く。



「 浅葱さん、そういえば、この間の依頼なんですけど 」

「 うん? 」

「 報酬が届いてますよ 」

「 あ、じゃあ、チャットに。この刀をいただいたお礼としてお納め下さい 」

「 え?いや、ですが、 」

「 じゃあ、ギルドに寄付 」

「 ええ! 」



じゃね、と手を軽く振って部屋に急ぎ足で戻る。
この世界のお金を沢山持っていても意味が無い。そのうち消えてしまうのだから。そう思いながら歩くたびに笑う膝のせいで倒れてしまいそうになるのは、



( このまま、消えたら何処へ行くんだろう )
( 帰れるのかな?それとも、 )
( 消えてしまう、のかな )

11/0122.




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