肺が握りつぶされそうな圧迫感と苦しさに目を覚ますと息がひゅー、と音を立てて出ていく。また、花火みたいに自分が消えかかっているんだろうか。汗は滲んでくるし、あの時みたいにじわじわと身体の中心に向かっていくような痛みが第二関節を刺しながら進んでいくのがわかって首を冷たい何かが駆け抜ける



「 くそ、 」



日中だけならよかったのに。そういいたくても胃まで刺されているみたいで吐き気がぞわぞわこみ上げてきて、口元を押さえようとした手は



「 っ…! 」



百合の花のように下を向いて、色を失くしていた。
点滅なんて優しいものじゃないソレに、私はもう片方の手をゆっくりと持ち上げるように出してみた。けれど、それはおなじくらいの速度で微熱をもちながら形すらも消えていく。焦るようにいなくなった爪や指先の形や色を思い出そうとしたのに、でて、こない



「 …ここに逃げ込もう 」



ふと、焦ったような声。
私の声じゃない。それに、私は何処で寝ていたっけ?ホールで、クレスのダジャレを軽くスルスルスルーしていたはずなんだけれど、まさか、ここ、ホールなわけ…



「 船?え、でも勝手に入ったりしたら、怒られたりしませんか? 」

「 事情が事情だろ?勝手に入っちまおうぜ。見つからなければ御の字だ 」




うっすら暗い視界のなかで私は物の形を判別してみるけれど、ここは、ホールだ。自分の部屋じゃない。だったら、この声は外から?
そんなはずない、と現実逃避をしようとして首を横に振ると――透明なプラスチックのような髪の先が暗闇でわずかに光り、蝶の鱗粉のようなものがキラキラと床に落ちる



「 不法侵入の罪は、禁固1年未満、又は、一万ガルド以下の罰金、です 」



近づく声、忍ぶようなかすれた足音。



「 ふ〜ん…、じゃ、ここで待ってりゃいいさ。一人でな 」

「 ま、待って!わたしも行きます! 」




目の前がぐるぐる回るみたいに血液が流れる音が確かに耳に残る。どうしよう、どうしたらこの姿を見られずにすむ?見られたくない、見られてしまいたくない。これだけは、この秘密だけは、守らなくちゃ――



「 ! 」



ゆっくりと顔を上げた先には暗闇に潜むような、黒く流れる髪。ホールの入り口で後ろからこれないように腕を広げこちら側との間に境界線を引くアメジスト。その濃い色が私を、捕らえた



「 ………ッ 」



透明な髪が、暗闇の中でまたゆれて。私だけ逃げるように視線をゆっくりとそらす。
まだ治りきっていない指先の形や色、半透明な髪を隠すように寝巻きについているフードを被り、ポケットに手を突っ込む。



「 …妙な船だな 」



ふと顔を上げてしまうと目が合う。まるでその瞳は、驚きを形にした慈しみがあるような気がした。思わず見つかってしまった実感が背中を刺し、隠していたことが広がってしまう恐怖で



( おさまる痛みに比例するように )
( 頭の中でぐるぐると『どうしよう』が回る )
( 本当に、どうしよう )

11/0122.




- ナノ -