スペクタクルズごしの景色には、黒くて大きな四足歩行の生き物であり、狩りを得意とする体系の生き物がいた。見た目はとっても狼みたいなんだけれど、名前は『ネガティブファング』という。つまり、

消極的な肉食獣の牙



「 浅葱!そっちに行ったよ! 」

「 …っくそう、力が抜けるような名前をしやがってえええええええええ!! 」



戦闘中に気を抜いたのはお前だろうが!というチェスターの怒声が聞こえたけれどもう気のせいだ。こうなったらやけだ。謙虚な名前しやがって!戦い方はさほどスマートじゃないくせに、スマートなカタカナならべやがってええええええ!!



「 ホーリーブレス! 」

「 お前、術なんて、使えんのかよ!? 」

「 ありがとう、浅葱! 」

「 お礼は後だ!前を向け!! 」



ずきん、と痛む腕をだらしなく下げてチェスターの見えない位置で唇を噛む。最近練習してなかったから忘れてたけれど、術使うと身体が痛むんだった。やっぱり、元の世界で術なんて使えなかったのを矯正しているようなものなんだろうか。なんせ、炎症を起こした時みたいなじんわりと熱のある痛みが襲ってくるからな…



「 お姉ちゃん、そっちにいっ―― 」

「 ――タイミングの悪い、牙だ…! 」



画面前で、一番最初に覚えた術の詠唱って、なんだったっけ?
でも、唱えてもし発動なんてしたら?きっと炎症程度じゃ、すまないかもしれない。それでも、



「 氷結は、終焉 」



この一瞬だけでいいから、力を貸してください



「 せめて刹那にて砕けよ!インブレイスエンド!! 」



ひんやりと、氷が滑っていくような冷たさが頬を撫でた気がした。空気自体が冷たいのかわからないまま、向かってくる黒い獣に鋭く落ちていく透明な棺がなんだか奇妙なくらいに綺麗で、息が止まる。見ているだけなのに、軋むような音が体中に響いて、心臓を打ち抜かれたみたいに息苦しくて、身体が熱い



「 くっ…、ここはひとまず引いてやる 」

「 けっ、だらしねえやつら 」



悔しそうな声と一緒に私の横を通り過ぎていく渋い緑色を横目で追っても、彼らは振り向かない。ただどんどん話が進んでいくのを感じながら、クレスやチェスター達のほうを見れば研究所の資料の前で話し合っている



「 早く書き写そう 」

「 このまま持っていけばいいじゃねえか 」

「 それじゃ泥棒だ 」



体中が心臓みたいに大きな悲鳴をあげて素早い脈を駆け抜ける音。その度に痛む体中の全てがだんだん気持ち悪くなってきて吐き気がする。胃をかきむしられてるみたいで、気持ち悪い。けど、耐えなきゃいけないと、下唇を思いっきり噛む



「 なんだよこれ、専門用語とかいうやつか? 訳わからねえ… 」

「 大丈夫、リフィルさんたちが解読してくれるさ 」

「 それもそうだな 」



上級術を無理やり速く出したんだからこれぐらいの代償があってもおかしくはないのもわかっていたけれど、一発しかできないか。



「 浅葱、大丈夫か? 」

「 ああ、ちょっと焦って無茶したせいか、慣れなくてさ。ごめん、役に立たなくて 」

「 そんなことないよ。回復してくれて助かったし、書き終わるまで休んでて 」

「 ありがとう 」

「 お姉ちゃん、大丈夫? 」

「 うん。少し休んだら、すぐに元気になるからね 」



笑えば頬に痛みが走るのもわかっているけれど私は笑う。この優しいディセンダーに弱音を吐きたくないし、なによりこの子にはずっと嘘をつき続けるときめたのだから。私はいつもみたいに笑みを浮かべると、エールが嬉しそうに笑った



( 君が笑うのなら )
( 君の前では何でも耐えてみせる )
( 私の痛みも悲しみも、全部、全部 )

11/0118.




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