チェスターがかすかに私の機嫌を伺うような表情で見てくるし、エールも心なしか私のことを見る目があの人懐っこい目から変わって、様子を伺う小動物みたいになっていた。わずか1、2分の出来事ってこんなにも大きいのか。非常に申し訳ないけれど、感傷的になってしまっただけで別に怒っていたりはしないんだけれど
「 なあ、ラルヴァを作ったジャニスってどんな人かな? 」
「 悪い人かなあ? 」
空気を換えようとクレスが話題を振ったのをキャッチしたのがエールだった。多分このキャッチは失敗しているような気がするのは私だけじゃないはずだ。確実にグローブから球が転がり落ちているのが目に見えるぞ
「 だろ? すげえ悪人に決まってるさ 」
「 私はそうは思わないけど 」
「「 え? 」」
エールとクレスが振り返り、私のほうに視線が刺さる。また意見が逆のチェスターはどうも苦い顔だけれど、私はゆっくりと笑顔を浮かべた。なんだか、振り返った二人が子供みたいに目を輝かせるから思わず口が緩む。微笑ましいというか、似ている属性というか…
「 何であれ、ラルヴァを作った言うのは天才だとは思うし。馬鹿と天才は紙一重って言葉があるけれどあれを正確に表せる一人の学者じゃないかなあ 」
「 うん?どういうこと? 」
「 何かを発明するって凄い大変な事を成し遂げた天才。でも、事後確認をしないお馬鹿さんってところ。 」
ある意味凄いヤツ。って簡単に言えれば良かったんだけどそんな簡単に略してしまうと確実にエールとクレスは言葉遊びに簡単に引っかかってしまうだろうな。遊びってほど綺麗な言葉になってないし
「 だけどよ、考えてもみろよ。
普通こんな所に研究所を持とうと思うか? 」
「 …普通は違うの? 」
「 そりゃあな。やましいと思ってるから、こんなトコで隠れてコソコソやってんだろ 」
「 それは…、そうかもしれない 」
エールが唸りながら首をかしげる。
喋るのがもう面倒になってきてしまった私を横目にチェスターが勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた
「 さあ、行こうぜ。ここはあんまり気持ちいい雰囲気じゃないもんな 」
「 そうだな、ここはマナが少ない。ロゼットでは穢れた場所とまで言われていた所だ 」
「 とっととジャニスって奴の首根っこをひっ捕まえてラルヴァについて吐かせてやるぜ! 」
完全に様子伺いから復活したチェスターが元気よく弓の弦をひっぱってみせ、クレスが笑う。この二人のコミュニケーションはらしいといえばらしいんだけれども、なんだか青春劇の男子学生の友情を生で見ているみたいで微笑ましいような、
かゆいような…
「 浅葱、どうかしたの? 」
「 ん?いや?どうもしない。妙にチェスターが空元気で、何も考えてない頭が大丈夫かなと思って 」
「 浅葱、てめぇ!! 」
「 そうやって
か弱い女の子に怒声を聞かせて怯えさせるのが好きなんでしょう!? 」
「 そうやってオレを嫌なやつに仕立て上げるのが得意なのが浅葱だったな!! 」
そして食いつきのいいチェスター。クレスは苦笑しながらも何処か楽しそうに笑っていて、私はこっそりエールにむかって笑うとエールがにっこりと、今日一番の笑顔を浮かべた。
「 はい、今日の一番いただきました! 」
「 浅葱っていつもエールのこと気にしてるよね 」
「 大切な妹ですから! 」
「 はん!オレの妹だって可愛いんだぜ? 」
「 チェスターの
ロリコンフラグいただきましたー 」
「 おまっ!ちょ、ま、 」
アミィちゃんのこと大好きだって知ってるよ!それにアミィちゃんって料理上手でクレスの事好きだったんだよね!そんなに焦らなくたって、ここに大切な妹の片恋相手がいるだけで、別に本人にばれてないんだから焦らなくっても…あれ?二回言った?
「 ろりこん? 」
「 …エール、ロリコンって言うのはね 」
「 うん 」
「 ……ロスタイム、リーズナブル、コンプレックスの略だよ 」
「 そうなんだ!お姉ちゃんはなんでも知ってるんだね! 」
無駄にした時間、手ごろ価格、劣等感。
「 ちょっと待て、一つだけお得な情報が入ってるじゃねえか! 」
「 そうだ。お前はロリコンをなんだと思ってるんだ 」
「 口調を堅くしたところでカッコよくはならねえよ!酷い
うッ!! 」
「 う? 」
「 エール、酷いうまさ。って言おうとしたんだよ。言葉遊びが上手いなってほめてくれたんだ。
余計な事を喋るなよ、小僧 」
エールに見えないようにチェスターの口の中に突っ込んだペンにチェスターが頷き私はペンをすぐに鞄の中にぶち込んだ。
本当はしばらくは秘密のままで( ふと状況を確認すればクレスが前に飛び出していた )
( 思わずぶち込んだはずのペンをデカパンに投げて )
( 駆け出すと、デカパンの耳にペンが刺さって…え? )
11/0118.
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