ドライヤーで乾かすのも鬱陶しくてそのままの髪でホールの椅子に座るとチェスターの細目が私の隣に座っていたゼロスを見て息をつき、彼の隣に座っているガイを気にしないとばかりに私へと視線を移す。不満があるなら甲板でもどこでも気にはしないのだけれど、とコーヒーを口にするとチェスターが首を横にふった



「 それで、なんだったかな。君が私にしかお願いできないこととは。でも、流石にR指定の入りそうなことはちょっと… 」

「 お前に本気で相談しようと考えているオレが馬鹿らしいからやめろおおおおお!! 」

「 はっ!す、すまない。また、自分の事を馬鹿と言わせる機会を作ってしまったか 」

「 ことごとくオレの事を馬鹿にするのが好きだなお前は!! 」

「 そんな酷いことをするのは誰だろうね 」

「 お前だ!!浅葱だよ!フルネームでも、浅葱しかねえよ!! 」



アーチェに突っ込みを入れるときよりも突っ込みの鋭いチェスターの言葉に周りがざわめき始めるが私は涼しい顔でまた、コーヒーを口に含む。



「 おや、珍しい名前だな。『浅葱』だなんて。お客にでもいたっけ? 」

「 いいから、お前だって素直に認めてくれ!! 」

「 ああ、私だったのか。悪い悪い、寝起きのせいか頭の周りが悪くて 」

「 随分と鬼畜な寝起きだな!頭の回転よすぎるだろ!? 」

「 まだ一割回り始めたようなしてないような気がするくらいだぞ 」

「 もう許してください 」



まだまだこれからだって言うのにも関わらずあっさりと頭を下げてきたチェスターに私がもうすぐ飲み終えてしまいそうなコーヒーカップを揺らす。苦そうな色合いに映った私の顔はとても楽しそうで、どこかの鬼畜眼鏡大佐を思い出しそうだ。じゃあないな。そろそろいい加減にしないと斜め前に座っているガイの表情が苦笑が完全にひきつってきたし



「 で、どうしろと? 」

「 お前の力を借りたい 」

「 借りるとはおかしな事を言うんだね。チェスターは私に何をどうすればいいのかというのを簡単に説明してくれればそれで構わないのに 」

「 こういうときに無駄にカッコいい事いいやがって! 」



悔しそうなのか嬉しそうなのかどっちなんだ、その顔は。



「 まあ優先順位はエールなんだが 」

「 それがなければ完璧な台詞だったよなあ!?まあ、いい。エールも関わってんだ 」

「 あの子が?チェスターに近づくなって言ったのに 」

「 お前はどれだけオレの事が嫌いなんだ!? 」



いや、存外…結構好きだよ。と小さな声で言ってみれば頬を赤く染めて「そ、そうか」と嬉しそうな顔をしたけれどあまり好意的に受け取ってもらっては困る。別にそういう意味ではないし、仲間とか笑い話の出来る男子は嫌いじゃないという意味だったんだけど…。まあ、いいか。チェスターにはアーチェがいるしな。



「 …お前に、ついてきて欲しい 」

「 言っておくが私の知識は乏しいし、たいした戦力にもならないと思うんだが 」

「 ジェイドにも言われてんだ。浅葱をつれていけって 」

「 あの陰険腹黒鬼畜眼鏡に? 」

「 気付いてるか、お前も十分素質がある 」

「 生まれる前から知ってたよ 」



凄く楽しい会話だった。
この会話には私のキャラクターを失うという可能性があるけれど今までが猫かぶりだったんだ。気にしない。



「 チェスター行く場所は? 」

「 ラルヴァを作った奴の居場所 」

「  」

「 あ、 」

「 あ? 」

「 アメールの洞窟の、奥だ 」



あれ?メインシナリオじゃ…?この間極力参加しないようにしないといけないなあとか思っててそれで何でまたこう巻き込まれるが如しみたいな感じで参加することになっちゃったんだろうか。いや、でもチェスターが遠まわしに説明するからいけないんだ、そうだ



「 浅葱? 」

「 んー? 」

「 急に大人しくなってどうしたんだよ 」

「 失礼だなあ、元はまるで兎のように大人しいんだぞ 」

「 じゃあさっきは兎が噛んできたのか 」

「 え? 」



うさぎって精神面が脆いから、少し脅かされただけでも自害しちゃうんだよ。なんて言えないから口を噤んで、ゆっくりと視線を落とすといつもどおりの顔がコーヒーに映る



「 ああ…うん。そう。かも、ね 」

「 本当に急に大人しくなったな。しかも曖昧だしよ 」

「 まあいいじゃないですか。多少大人しいほうが扱いやすいでしょう? 」

「 ジェイド 」



またあの笑み。
赤い瞳を心配そうにゆがめるだなんてらしくない。



「 おや、どうかしたんですか? 」

「 一つ、言っておく事があってさ 」

「 ふむ。なんでしょう? 」

「 …お人よし 」



小さな声ですれ違いざまに呟いた。ジェイドがこの言葉にどんな顔をしていたのかわからないけれど、少なくとも心配から離れた笑みをしていればいい



「 ありがとう、一応感謝してる 」




( ちょっと待てよ!もうつくぞ!? )
( 部屋に忘れ物だ。ないと困るしな )
( 兎は寂しがりじゃねえのか?! )
( あながち間違いではありませんが、あの子は兎よりも… )

11/0117.




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