「 最近、夜は寝ていますか? 」



アイシクルレインの氷に当たったバットがひゅるりと力なく落ちて、私の足元にも氷が刺さる。鞘つき刀を腰に戻しながら首をかしげた私に赤い目が細められて、私はヘラリと笑った。寝ているかっていう質問に対して答えを返すのならば『ノー』。眠れるのか、と聞いてくれれば答えは変わったのに。



「 それが、ジャニスとかラルヴァに関係あるのか? 」

「 いえ。関係はありませんが、 」

「 うん? 」

「 最近、夜中に甲板にいるというのをよく聞きますので 」



右腕にスピアをしまいながらそういうジェイドに「そう」と小さく返した。話題を軽くずらしたつもりがあっさりと戻されそうで警戒しながら、頭の中で言葉を選ぶ



「 空を見るのが、好きなんだ 」



何の変哲もない言葉をそのまま口にして、帰り道を歩き出そうとすると肩にいつぞやの違和感。ミシィ、とまた音が鳴り口元が引きつって振り返る。そこには、業務用の笑みを浮かべたジェイドがいた。最近眠れない理由なんてどうせわかりはしないだろう。直接的にあれを見たわけではないし、私みたいに精神が弱い訳じゃないんだか



「 デモンストレーションの後から、急にですか 」



ら。
赤い目が私の心を突き刺すようにみて、息を吐く。まずい、ばれてる。デモンストレーションのあとからまともに眠ってないことが、ばれてる



「 あんな風に破壊されちゃったら壊れない空がいつもより綺麗に見えるんだよ 」

「 壊されたのは、本当は山ではないですよね 」

「 …山、だ 」



首筋を冷たい何かが滑りぬけた。
ひんやりと、肌を突き刺すような嫌な感覚と一緒に。



「 貴女の事ですから、あの日からまともに眠っていないんでしょう? 」

「 …そんなこと、ない 」

「 帰ってきてからエールも貴女も様子がおかしかったのはわかっているんですよ 」

「 エールはともかく、私は少し気が当てられただけで、そこまでおかしくない 」



嘘に本当を少しこめて。ジェイドに向き合うと赤い目が少し怖くて、初めて対面した時の恐怖とは違う、心の奥を覗かれてしまっているような感覚に唇を噛む。冷や汗がだらだらと首から背中へと落ちて落ちて、堕ちて。息苦しくて、うっすら目元に浮かびそうになる涙に瞬きをして、押し戻す



「 嘘、ですね 」

「 嘘なんかじゃ、 」



ずん、と鈍い音が響く。何をされた?どこをやられた?首の後ろか?そんなことを考えていると視界がぐにゃりと歪み、力が抜けていく。まるでスローモーションのように前のめりに倒れこんだ先で、上から声が聞こえた



「 貴女を心配している人が居る事にも、気付いてくださいね 」




( 優しい声を聞いた )
( それは今までに聞いたことがない暖かさがあって )
( 少し素直じゃないところが、ジェイドらしくて )

11/0116.




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