ルークとは似ているようで違う色。真紅の髪が無造作に散らばっている。リフィルと私の治療のあとでも青い痣や白い肌が次元を超えたような白に変わっていて、痛々しいどころじゃなく髪の紅と間逆のようで妙に綺麗に見えるせいなのか、一瞬鳥肌が立ちそうになった。何してんだ、だとか何も言わないアッシュを見て、花瓶に花を挿す



「 早く良くなると、いいね 」



見ているだけでも胸が痛くなりそうなぐらいの痣なのに。綺麗なひとが儚げな表情をしているときと同じように目が話せなくて、医務室の丸椅子に行儀悪く立てひざのまま座って膝の間に顎を置いて見つめる



「 …いつまでも寝てやがって 」



つい滑ったように呟いた悪口は悲しく消える。
頭の裏でずっとゲーデのことを考えてしまうからなんだろうか。負を受け止めきれなくなったエールと対になる世界の要は、今もお母さんである世界樹の中で自分は一人ぼっちだと思っているんだろうか



「 浅葱、さん? 」

「 パニール、か 」

「 ここにいらしたんですね 」



うん、と頷くとパニールが氷嚢を取り替えてアッシュの身体に乗せる。医務室の中に氷のすれる音と水の音が響いてぱたぱたと羽が忙しなく動いていた



「 花を持ってきたら、ついつい考え込んじゃってな 」

「 私でよろしかったら聞きますよ 」

「 いや、本当に困ったら、聞いてもらうことにする 」

「 あらあら 」

「 今話してしまえば、甘えてしまいそうだからさ 」



きっとゲーデは甘えを知らない。だから一人ぼっちで抱え込んで、どこかで泣いているんじゃないかと不安になるほど、あの子が愛しく思う。それなのにまだ外にはいないあの子と外にいるあの子の二人ともが可愛くて、守ってあげたくなる。矛盾というか、この世界の『悪い』がわからなくなって、どっちも愛しい



「 そういえば、私を探していたのか?さっき此処にいたとかなんとか言ったよな? 」

「 ええ。ジェイドさんが探していましたよ。なんでも手伝って欲しい事があるだとか 」

「 手伝って欲しい事? 」



思わず顔をしかめてしまいそうなその言葉に首をかしげる。ジェイドが私に手伝ってほしい事なんてあるんだろうか。前に一度書類を運ばされたくらいでほかに何かあったっけ?



「 ほかに何か言ってた? 」

「 個人的な依頼らしくて、チャットさんには何も言ってないらしいですよ 」

「 うわー…すっごい行きたくない 」



戦闘で言えば確実に前衛で壁として扱われ、当たるか当たらないかのギリギリのところで術を発動されたりするような綱渡りの心境だ。あれに当たりそうだと判断した瞬間に頭よりも口が早く動くんだよなあマジックシールドォッ!!って。



「 そんなに嫌がることはないでしょう 」

「 どっかの誰かさんが鬼畜な事にギリギリで術を発動するからだ 」

「 誰でしょうねえ、そんな酷い人は 」

「 お前だ、ジェイド 」



いつから医務室にいやがった!そう切り返せばあの軽い笑い声が聞こえて腕をつかまれる。ミシィと不気味な音を立てた私の腕。ジェイドといえばそんな事は知らないとばかりにパニールに軽く愛想笑いを浮かべて医務室から外へと歩き出していく



「 痛い、離せよ 」

「 いえ、このまま話を聞いていただきます 」

「 …どういう事だ 」

「 やはり、場所を変えましょう。少し付き合っていただけますか 」

「 …ああ、構わない 」



腕を掴む力が弱くなるけれど、振り払うような気持ちにはならなかった。珍しくあの赤い瞳が感情めいていて私は息を飲む。頭の奥で警報は鳴っていない。だから、多分大丈夫だろうと心の奥で呟いた



( ないような、不思議な気持ち )
( 悪い事は聞かれない気がしたから )
( 素直についていく )

11/0116.




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