目を瞑ろうとすると、いつも思い出してしまうから。あの時の吐き気が喉元をかきむしるから、私は眠る事が苦手になっていく。瞼を閉じれば再生されてしまうような気がして落ちそうになるとつい力を入れて抵抗する。夜中をどうにか過ごそうとしても本は読めないし、紙に何か書こうとしても誰かに見られる気がして、漢字もカタカナもひらがなもかけないし英語も書けない。だから、



「 よっしゃ、捕まえた! 」



私の腕の中でうごめく虎縞模様の猫。にゃあにゃあと抵抗するように爪を出して私のコートを引っかく。けれど爪はちゃんと切られているようで長くないし、元が室内で飼っている所為か抵抗も柔らかいからあんまり問題はない。

猫探しの依頼を請けて、朝方に猫の尻尾で引っ叩かれる人間なんて多分私だけだろう。



「 大丈夫だよ 」

「 にゃあ 」

「 抵抗しなくなったらちゃんと家に帰してあげるから 」



腕から急に飛び出してしまったらまた捕まえるのに手間がかかるし、なによりも大人しくなった猫を抱えて歩くなんて幸せすぎる。まだ私の頬を尻尾でペチン、と叩いてくるけれど、尻尾を振っているのか叩く気なのかわからない威力なのでなんともいえない



「 あ、あの 」



金髪の髪が一本一本、森を背景にして空気中で揺れた



「 この辺に、『アドリビトム』というギルドがあると聞いてきたのですが 」

「 その『アドリビトム』のギルド員の浅葱だ 」

「 よかった…。私はミント・アドネードと申します 」



柔らかく笑うミントに私もニッコリと笑って返す。最近ギルドメンバーの増える流れだっけな?とか思いながら腕の中で大人しげに「にゃん」と猫が鳴いてミントがそれに微笑むと、木の陰から人の髪が見えて私は苦笑する



「 ミントは一人で来たわけじゃないんだろ?案内するから、呼んできなよ 」

「 え!ど、どうして、 」

「 隠れ方が下手で見てられないぞ 」



長い金髪を揺らしながら振り向くと木の陰やら、木の上からでてくるファンタジアメンバーは妙に険しい表情をしていた。そんな事は知らないとばかりにまた鳴く猫の尻尾のゆれが落ち着いてきて、私に擦り寄って前足を私の腕に引っ掛けている



「 えっと、浅葱、だったよね? 」

「 ああ、そうだ。それで全員か?ほかにいない人は? 」

「 大丈夫だぜ。ところで、アンタ、本当にアドリビトムのヤツなのか? 」

「 言い方は悪いとは思うけど、疑うならついてこなくていい 」

「 チェスターのいう事なんて気にしなくていいからさ!早く行こーよ 」

「 てめ、アーチェ! 」



ピンクの髪と水色の髪が揺れながら叫びあうのを見て苦笑するミントと赤いハチマキを巻いた男の子、クレス。それと栗色の髪を一つにまとめた忍者服の少女、すず。名乗ってもらってないけれど皆知ってる。だけど、名前を呼んでいいのはまだミントだけ



「 あの、大丈夫ですか? 」

「 へ? 」

「 目の下、隈ができてますけど 」



栗色の髪が揺れて、じっと見つめてくるすずちゃんに私はつい口元が緩んで微笑んだ。



「 大丈夫だよ。 」

「 ですが、 」

「 ほら、早くアドリビトムに行かなきゃ。私も、この猫を飼い主さんに渡してあげないといけないから 」



すずちゃんが猫を見て目をぱちぱちと瞬きをして、あいている手ですずちゃんの頭を撫でるとくすぐったそうに目を伏せる。ジーニアスみたいに抵抗しないところがまた可愛い。そう思いながら、まだ痴話喧嘩の終わらない水色とピンクを見て私は口を開いた



「 そろそろ、本気で置いていくぞ? 」



それも駆け足で。



( チャット、お話があるんだって )
( 子分の子分ですか!じゃあボクの子分ですね!? )
( ちょっと待てや、船長 )

11/0115.




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