「 アドリビトムというギルドはここか? 」



ホールでカイウスの服の袖を縫っている時に入り口の方から足音がしてカイウスが動こうとして私が小さく名前を呼ぶと、申し訳無さそうにシュンとした姿がまさに犬だった。不覚にもキュンとしてしまいそうな私に首をかしげて犬が見てくる。ああ、ちょ、かわいい。この髪の毛でもふもふしたい!そう思っていたのに、ぷす、と短い音が し た ?



「 あ、痛ぇっ……はい。そうですが 」

「 見慣れないヤツだな。一体何の用だ? 」



思わず大きく声を上げそうになったのを耐えて、妙に男らしい小さな叫びとは逆になるべく女性らしく笑顔で業務用の返事を返したとたん。私の指に赤い液体が溜まり、銀色が刺さったまま上の穴からは糸がするすると伸びていく。



「 俺は、グランマニエ皇国海軍から義務委託された民間のマリントルーパーだ 」



まりんと、るーぱー?え?これってあれか、依頼を頼みにきたお客様じゃなくて…新キャラ、じゃなくて新たなパーティメンバーがでたというか、針刺さってないかこれ!くそう、カイウスが急に動くから…地味に痛いよ、これ!



「 海上活動の専門家が必要だと言われてこのギルドに派遣されたんだ 」

「 なるほど。じゃあ、これから一緒に働く同僚だな 」



楽しそうに会話して、握手してんじゃないぞカイウス!この場で今すぐ大声でお座りって叫んでやろうか!まだその袖も縫い終わってないし、何よりも小指に刺さった針を抜くタイミングを見事に忘れてしまった私が哀れだよ!道化だよ!ピエロだよ!



「 …大丈夫、か? 」



そっと伸ばされた手は私へ、だった。握手かと思って私も手を出そうとしたけれど、どうしてかわからないまま小指に針が刺さっている。しかも血までしっかり出ているあたり浅いのか深いのかわからなくて微妙な気持ちになって手を伸ばした男の子を見た。小指と私の顔を交互に見て、困ってる



「 大丈夫だ。それと、こっちの手でいいかな? 」

「 あ、ああ。俺はセネル・クーリッジだ 」

「 私は浅葱だ。よろしく頼むよ 」



逆の手で軽く握るとセネルの手は少しごつごつしてて、カイウスの手を触ってもなんだかゴツゴツしていた。私の手を確認するようにそっと押してみたけれどぷにょりとあからさまに脂肪を示していて、少しむっとしそうになるのを堪えてみるけれど、耐え切れる気がしないぞ…



「 キャプテンは機関室だ。適当に挨拶してくればいい 」

「 じゃあ、セネル。また、あとで 」

「 そうだな。また、あとで 」



ひらりと軽く手を降った白に薄く紫がかった髪が歩いていく。私はその背中を見送りながらカイウスに小指を見せると小さな声で「痛そうだな」と呟いて容赦なく針をつかんだカイウ、



「 いッ―――― 」



赤がぷく、と小指の上に晴れ上がる。叫ばないようにと噛んだ下唇からその味がして、この間強く噛んだのが感知していない事を思い出して赤くなっていく唇のまま、カイウスを薄い目で見ると犬が怯えたように後ずさりするのが見えた



「 あれほど、動くなと、私は、言ったはず、だが? 」



わかりやすく、頭にしみこむように区切った言葉は妙に低い。別に怒っている訳ではないけれど、頭の中に恐怖政治。という言葉だけが残った



( すぐにシュンとしてごめんなさい。と謝るカイウス )
( 今度やったら、体術の刑な。と約束をして )
( 袖の続きを縫う )

11/0114.




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