私のコートの裾をぎゅうっとつかんで私の後をついてくるエールを横目に見ながら、バンエルティア号に踏み入れた私達。帰り道にここぞとばかりに襲い掛かってくる魔物にエールの手を優しく解いて前線へ飛び出し大乱闘グラニデファミリーズになったのは、あの子の顔色の悪さに気がついた後衛二人のおかげでした。少し楽な戦闘が出来たのは私的にもよかったよ。

そんな私達が帰ってきて目にしたのは営業用の笑みをうっすらと浮かべたジェイドで、あの赤い目はエールを見て、そのあと私を見て少し驚いた風に目を開いてまた笑みが戻った



「 待ってましたよ。その顔色からすると、何やらあった模様ですね 」

「 まあ、あった 」



あっさり肯定した私の声にジェイドが少し、顔をしかめる。私はコートの裾をずっとつかんで離さないエールが私の背中にそっと寄り付いて、かすかに震えるエールの手が裾から伝わって収まりかけた膝がカタカタと震えそうだ



「 報告は、科学部屋で聞きましょう。先に行っていますね。 」

「 おう 」

「 エールもご苦労様でした。浅葱はとりあいず科学部屋の方へお願いします 」

「 ああ、構わない。が、 」



私の背に伝わるほど跳ね上がったエールを見るとその目を震わせて、少し俯いていた。髪どおりのよさそうなその髪を撫でるように梳くと怯えるように、睫毛を震わせながらゆっくりと視線をあげる



「 エール、少し待ってて 」

「 …、やだ 」

「 お願い。少しだけ。エールがいい子にしてたらすぐに戻ってくるから 」



私のコートの裾を掴んだまま、首を横に降るエール。どうしたらいいんだろう、どうしたらわかってくれるんだ?いや、だめだわかってくれるとかじゃなくて、わかってくれるように努力しなくちゃいけないんだし、でも、きっと、今は



「 浅葱、お姉ちゃん 」

「 絶対にいなくならないように、これを持ってて 」



コートの袖から腕を抜いてエールへと投げるようにかぶせると中途半端に被ったエールの目がぱちぱちとして、すん、とエールの鼻が動く。しばらくするとぎゅうっと私のコートを抱きしめて、目尻に涙を浮かべながら、ゆっくりと縦に頷いた



「 いって、らっしゃい 」

「 うん、行って来るね 」



そう言ってエールの頭を撫でるとくすぐったそうに目を細める。そっと手を離すと寂しそうに私の手を視線で追いかけて、髪の感触が妙に手に残って、またあの頭の上にもどってしまいそうになるのをこらえて微笑む



「 浅葱、行きますよ 」

「 ああ。わかってる 」



ジェイドが歩き出すのに、エールは立ち止まったまま。
私は数歩踏み出して身体を反転させて『すぐにもどるから』と口パクで伝えるとエールが小さく笑った



「 …浅葱? 」



後ろから聞こえたジェイドの声に、身体の向きを直すとジェイドが愛想の良さそうな営業スマイルを浮かべて私を見下していた。いや、身長的にそうなるのはわかっているけれど多少はヒールとか履いてるのにまだ差があるだなんて、



「 なんだ、ジェイド 」

「 途中でいなくなろうとしないで下さいね。探す時間がおしいので 」

「 お前がそういうヤツだってことは知ってたよ! 」



畜生!赤い目をあからさまに愉快そうにゆがめて笑いやがって!サラサラキューティクルを揺らしやがって!うらやましいにもほどがある。細いし、そのくせコーヒーカップが妙に似合う。いや、紅茶でもいいんだろうけれど。そんな事を考えてしまい思わず目を細めた私にジェイドが愉快そうにまた笑った



( 面倒見のいいルビアの声が聞こえたから )
( 振り返るのをやめて、止めそうになった足を動かす )
( 神官見習いに、安心感を得た )

11/0113.




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