少し緊張した面持ちで歩く私の後ろからついてくるような3人の足音が欠けた気がして振り返ると小さな銀髪が揺れた。私が立ち止まった所為で連鎖反応のように足を止め、リフィルとエールが振り返る。刀をしまいながら「どうした?」と軽く声をかけるとジーニアスがズボンの裾に添えるように掴んで、肩をわずかに揺らした



「 確かにラルヴァは、色んな機器を動かしたり生活の灯りになったり便利だけどさ 」

「 うん 」

「 どうしてナパージュのみんなは、先に危険性を確かめようとはしないの? 」



ジーニアスはズボンの裾を思いっきり掴んで私のほうを見る。純粋で真っ直ぐな目がどこかエールに似ていて、答えなくてはいけない、答えなくちゃ、そういう思いに急かされて口に出したい言葉は、何もなくて二酸化酸素と窒素だけがすうっと唇の間を通り抜けた



「 生活にゆとりがなかったのよ。それは、わかるわ。痛いほどにね 」



抜けた分、耳から入ってきた言葉に目を動かして凛とした声を辿るようにリフィルを見ると声とは別に目の縁をゆがめて眉間に皺を寄せて、小さな叫びのように唇を動かす



「 だから、やってきた豊かさに飛びつかざるを得なかった 」

「 でもさ…。あんまりにも短絡的っていうか… 」



まるで、ナパージュに住む大人の意見だ。それほどゆとりというものはなくて必死で飛びついてしまった人をどれだけ見てきたんだろう?リフィルの綺麗な銀髪がサラサラと揺れるたびに悲しい気持ちがじんわりと広がって、ゆっくりと視線が落ちた



「 『家庭』をもつ大人、そしてその共同体である村というのはね、存続していく為に皆必死なの 」

「 そう、なのかなぁ…。プレセアだって、あのラルヴァに触れてから何だか感情が失われたようになっちゃって… 」



か、てい。
その言葉が矢みたいに胸に刺さって、大きな擦り傷を負ったみたいにじくじく痛んで、なんだか胃の下がむかむかして、痛くて、



「 それを村の人達はなんとも思わなかったのかな 」

「 それが、ラルヴァのせいという確証がなければね 」



いたくて、



「 実際、ラルヴァが原因であるかはわからない。だから、ここからが私達の仕事ではなくて? 」

「 そうだね… 」



しぶしぶ返事をするようなジーニアスの声もはっきりと聞こえているのに頭の中でこんがらがったみたいにハッキリしない。まるで、後頭部を鈍器で思いっきり殴られたみたいに吐き気がして、痛くて、苦しい



「 ジーニアス、 」



でも、私にはこうやって人を思って声をかけることぐらいしかできなくて。弱音なんて吐いていたらきっとエールにも皆にも、迷惑をかけてしまうのだから。そう言い聞かせてジーニアスの目線にあわせるように少し、屈んで優しく見えるように目を細めて笑みを浮かべる



「 プレセアのことは君のせいじゃない。けれど、人を責められるほど私もジーニアスも人じゃないわけではないんだ 」

「 でも…! 」

「 生きていれば、泣きたいことも失敗することも、成功も、あるよ。思いがけないことも。 」



熱くなる目尻に、ゆっくりと息を吸い込んで背を向けた



「 それを繰り返して、成長するんだよ 」



きつい事をきつい口調でいえなくて、エールに接する時と同じ声で音程で呟くような声はジーニアスに届いても届かなくてもいいつもりだ。まるで私に言い聞かせていたみたいだから、こんな言葉、ジーニアスに届かなくても、構わない



( 視線だけ見ると、銀髪が揺れていた )
( 私と繋いだ手と逆の手は )
( そうっと、私の手の甲に添えられていて )

11/0112.