「 浅葱、少しいいかしら 」



そう声がして私は最後のシーツに洗濯バサミをつけて振り返ると、涼しげな表情をしたリフィルがいた。何か私は悪い事でもしたんでしょうか、先生。お願いですから怒らないで下さい。何もしてませんから。と心の中で心底思う中でなるべくにこやかに振り返る。



「 何かあったのか? 」

「 ええ、少し 」



さきほどから妙に少し。という言葉を多用しているようですがブームですか?少しブームですか?確かに使いやすいというか用途、要所で使い分けの聞く便利かつ子供の言い訳にも使われやすそうな言葉だけれども、リフィルが使うと妙に知的な感じがしてそんなふざけた言葉が吐けなくてシャツに洗濯バサミをつけたまま首をかしげた



「 実はというのもあれなのだけれど、今この船が向かっている場所はわかっているわよね? 」

「 ナチュラルにぼかされたけれど、一通り話は聞いてるよ 」



ラルヴァ生成実験というか、ジャニスの研究成果を大々的に広める発表会を覗き見に行こうっていう事だったはずだ。それを少し前にジェイドに聞かれて答えたら大笑いされて、浅はかな脳内をさらに卑下されたような気がしたんだっけ



「 正直なところ、浅葱にもついてきて欲しいのよ 」

「 え?エールがついて行くんじゃなかったのか? 」

「 …そうなのだけど。私もジーニアスも術者だし、エール一人じゃ辛いと思うの 」

「 …壁が足りんと、いう事だな 」



術者を守る壁が足りない、という事だ。
まずい。なにかとこうやってメインシナリオに入っていくのはあんまり良くないというか部外者の私が此処にいる事だってよくないはずなのに、しっかりメインシナリオに入っちゃってるあたりよろしくないだろう。むしろ、私もハラハラしてるんだけど。でも頼まれちゃったら断れない、し、



「 役不足かもしれないが、行くよ 」



何を口走った自分!役不足なのは重々承知だろうが!だから、それを使って上手く回避すればいいものを…



「 お願いするわ、浅葱 」

「 ああ。こちらこそ 」



ニッコリと爽やかな笑みを浮かべてしまった私はリフィルの後姿を見ながら呆然と立ち尽くす。何言ってるんだろう?本当に何を口走っているんだろう?役不足がどうとか残念すぎる事を言った私にリフィルはすべるような口調と綺麗な笑顔を残してあっさりと立ち去ってしまった



「 なにやってんだろうなあ 」



本当に、なにをやっているんだろう



「 いい、天気だね 」



ただ一人で、呟いて空を見る。視界の間ではためくシーツが揺れて、雲のない空に雲があるみたいで綺麗だった。頼られたら断れなかっただけ。そんな風に頭の中に浮かんだ言葉に頷いて、弱音を吐きそうな唇を噛む。
不謹慎だけど、今だけゲーデの気持ちがわかりそうな気がした



( マイナスに特化したゲーデとエール )
( 画面の向こうでいつも思っていたのは、 )
( 彼の孤独は、この世界の誰よりも人間だってこと )

11/0111.