とある何処にでもある食事の瞬間だった。エールのお皿の上にポツンと存在している緑とオレンジ色にパニールがため息をつき私はそれをみて「食べないの?」となんとも言えない声で聞くとエールがはっとしたように頷いた。どうやらこの子、ピーマンと人参が嫌いなようです



「 だって、美味しくない 」

「 …美味しくないって言っても、ピーマンもニンジンも美味しくないって言われるために育てられている訳じゃないんだよ? 」

「 美味しくないものは美味しくないんだもん! 」



すっかり駄々っ子属性に育ってしまったようです。あれ?しまった。もしかして私の育て方が問題なんだろうか、と思いながらエールの手元に視線を戻すとニンジンとピーマンとの戦闘をあきらめ、即座に撤退を始めたスプーン。それを視線で追うとエールが気まずそうな顔をしてから嫌々と顔を振って席を立つ



「 エール、 」

「 …お仕事してくる 」

「 いや、だから、この子達の運命は!? 」



イエス、ジャスティスっ!とか叫びだしそうな私も席を立つ訳にはいかず食堂から飛び出していくエールの背を見送った。今追いかけても好き嫌いは治るようには思えない。だったら他の方法で食べさせるしかないんだろう。まあ、生まれたばかりの子は基本甘味大好きだから苦いの嫌がるのと同じ原理、だとすると



「 …甘党? 」

「 浅葱あまいのすきなのか? 」

「 ルーク、私は普通です。それなりに好き。たまにケーキ食べたいなあとかおも、 」



うけど。と続こうとした唇はピタリと形をとどめ、頭の中で繰り返す言葉。今時分なんていったっけ?確か甘味がそれなりに好きで、たまに…



「 ! 」

「 どうしたんだ? 」

「 キャロットケーキで解決するかも! 」

「 …なんだそれ? 」

「 ルーク、ニンジンのケーキだ。よし、パニール調理場借りるぞ!ニンジンさんの無念を晴らすために! 」



キノコ嫌いなルークの好き嫌いは治しにくいがニンジンとなれば話は別だ。私は早速とばかりに馬マスクを装着し、エプロンをつけ食堂の料理場に立つとルークに「馬マスクは必要なのか?」と疑問を投げかけられたので「人には仮面が必要さ」と軽く流しておく。ニンジンを摩り下ろしながらそんな事をいう馬はこの世にはいないだろうが、よく考えればニンジンは馬に食べられるイメージしかないぞ…?



「 ところで、なんで浅葱はそれをかぶるの?邪魔ではないかと思うのだけど、 」

「 ティア…どんなところにも七不思議は必要だよ。それがロマンさ 」

「 変なロマンはいらねえだろ 」

「 いやほらルーク。小さい頃の夢だってロマンだぞ。それをお前はいらねえというのか! 」

「 だから、変なロマンは、 」

「 誰でも変な夢の一つや二つは持ち合わせてるだろ! 」

「 だあああああああああ!ニンジン摩り下ろしながらどうしてそこまで上手く口が動くんだよ! 」

「 それは、馬マスクだからさ 」



坊やだからさ、と同じように言うとルークが悔しそうに紅茶を口に含む。何よりも坊やだからさ、という言葉のニュアンスが憎めないどころか結構好きな私としてはこの台詞をニュアンスだけで言えたのが嬉しいと言うべきかルークの悔しそうな顔が楽しいというべきが馬のマスクの視界の狭さに絶望した!



「 …ところで 」

「 なにかしら? 」

「 うちのエールはいつ帰ってくるんだろうか 」

「 思い立ったら即行動って言葉を行動に表した際の不足ね 」

「 まあ、人は迅速な行動が大事だと思うぞ 」

「 止めてくれガイ。今にも折れそうな心を捻じ曲げるな 」

「 折れねえのかよ! 」

「 私の心はハリガネ製です 」



良く曲がるけれど何度も曲がりすぎるとさすがに折れるという伝説の棒です。じゃなくて帰ってくるまで何をしたらいいのか考えるだけでマスクを脱ぐという選択肢が一番にくるんだけれども。



「 いいから折れておけよ! 」

「 嫌だなあ。誰も折れないとは言ってないさ。折れるのに回数が必要だといったんだ 」

「 めんどくせえな! 」

「 女って生き物はめんどくさいんだよ! 」

「 …お前、女だったのか 」

「 過去にするな!現在進行形だよ女ですよ馬マスクかぶってるけど女です! 」



人一人誘惑できない身体だけどな!とマスクを脱ぎぜーぜー言っているとルークの顔が赤くなっていた。どういう意味で捉えたのかと聞けばそういう意味なんだろうけれどもこういう新鮮な反応というか初心な反応をされると、ルークが可愛く見えてくる。例え、女を過去形にされても、だ



「 おねえちゃんただいまー! 」

「 おかえ、手を洗ってきなさい。何倒したら腕まで赤くなるんだ 」

「 手、洗ったら…浅葱お姉ちゃんのお菓子食べても、いい? 」

「 …うん、 」



あらぶっていた感情が浄化されるように微笑むと視界に入ったルークとガイがポカンとしていた。ティアは驚いていると一言で表すには表情があまり変わらないように、と心がけているようだ。私が笑うのが変なんだろうか、とエールを見るとくりくりの目が私を覗き込むように細められる。手を洗うエールの横で切り分けて、テーブルにおくとふわふわしたエールが嬉しそうに笑った



「 あのね、 」

「 なあに? 」

「 浅葱お姉ちゃんの作るお料理もお菓子も、全部、あの、 」

「 ん? 」

「 だいすき! 」



今から嘘つくお姉ちゃんを許してね、エール



( 笑顔でオレンジケーキ作ったんだよ )
( と言って嘘をついた私にルークが口を開きそうになる )
( エールの見ていないところで彼にボディブローを押し込んだのは内緒だ )

10/0921.




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