ゲストルームまでたどり着いた私達。ジェイドの指令でティアとガイが部屋から出て行きそれに続こうとすれば止められ、船酔いの振りを続行するはめになった。ああ、いい子ちゃんの振りをするのってこんなかんじなのかなあ?息苦しいって言うか、空気に圧死されてしまいそうな感覚にゆっくりとソファに腰掛けるとゆるいウェーブのかかった赤い髪が隣に座った。



「 ミスティックケージ! 」

「 うおおおおっ!!マジックシールドォ!! 」

「 何処の誰か知りませんが、浅葱に簡単に近寄らないでいただけますか 」

「 急に随分と過保護だな 」

「 浅葱は黙っててくださいね 」

「 すいませんでした 」



あれ?今なんで私謝ったんだろう。始めはなんだか真面目に始まっていたはずなのに。いや船酔いの振りしてる時点で不真面目だけれども。でも船酔いってどんなのだっけ?ああ揺れる!頭の中まで揺れる!どうしたらいいの!?よし、寝よう。さあ寝ようって感じだっけ?あれ?なんだっけ?



「 あの、話をしてもいいのかしら? 」

「 あ、はい。すいません。あの鬼畜眼鏡と隣の赤毛くんがなんか話の邪魔したみたいで 」

「 なんか本のタイトルにありそうだな『鬼畜眼鏡と隣の赤毛くん』って 」

「 確実に鬼畜眼鏡が女である事を願うね。で、お姉さんドウゾ 」



オプションで後ろにニッコリとつきそうなほどの笑みを浮かべたジェイドと目が合ったのでもう喋らないことにします。といっても隣の赤毛くんが何かしでかそうとしてくるたびにミスティックケージがさっきのときよりもギリギリ位置で主張をしてくる。赤毛くんの距離が近づいた訳ではない。術発動位置が近づいたんだよね、これえええええええ!!



「 私は、リフィル・セイジ。ナパージュ村で学者をやっていたの。ラルヴァについてお話出来る事は実はあまり多くないわ 」

「 どういう事? 」

「 というのも、ラルヴァはナパージュで開発されたものではなく、ある時突然村に導入されたものなの 」



ふいに口を挟んでしまった私の声が部屋に響き、ジェイドは特に何もいう事なくスルーしてくれた。命の危機は免れたようです私。生きる道を再び与えられた私は隣の赤毛くんを軽くスルーして前のめりになりながらお姉さんを見た



「 ラルヴァの生成方法や、その性質について詳しく分析もされないままに使用され始めたの 」

「 そこまで急いでラルヴァに飛びつく必要があったんですか? 」



まるで新製品、季節限定とか個数限定に飛びつく女の子をイメージしてしまったけれどたぶんそれと似た状況なんだろう。命の危機がないだけで、全く同じと言っても同じような状況を目の前にジェネレーションギャップならぬワールドギャップを感じたよ。すぐに二つの赤の所為でそんな思考もかき消されたんだけれども



「 元々マナの恵みが少ない村だったの。強力なエネルギーであるラルヴァはすぐに村民に歓迎されたわ 」

「 それで? 」

「 村はラルヴァによって豊かになった。しかし、未だ得体の知れないモノである事には変わりはないわ 」

「 確かに 」



そういう場合知ることを知った上で口出しをしない私は、ズルい人なんでしょうか。そんな言葉が腹の中で反響して上からの恐怖心がその小さな私を潰してしまった。ズルい人間だってことを本当は知っていてなお、それを潰しにかかった私は本当は、卑怯なんだ



「 いかに強力なエネルギーだとしても安全性や供給性の確認を怠るわけにはいかないでしょう 」

「 その通りよ。私はラルヴァの安全性を確認してから使用する様に提案し続けたわ 」



誰だってそうだ。得体の知れないものを急に出されて飲み干す人なんかいないだろう。だけど、あまりにも喉が渇いていたら飲んでしまう。それが美味しかったら?すぐに人体に被害が出ないものだったら?激しい毒物ほど、うまいものだと誰かが言っていた気もする



「 でも、村民は簡単にラルヴァを受け入れすでに依存しきってしまった。私の話にまったく耳を貸さずにね 」



美味しいものにわずかな毒が入っていて美味しいものを食べ続ければ毒が溜まり人体に害を及ぼす。優しい言い方にすれば、ほうれん草は食べ過ぎると石が出来ちゃうぞっ、てことなんだけれども。でもほうれん草の胡麻和えは止められません。



「 挙句の果てには、ラルヴァの研究に邪魔が入る始末よ 」

「 では、こちらでラルヴァについての研究を進めてはいかがでしょう? 」



淡々と進む会話に私がふいに顔を上げた。近くにあった赤い瞳は相変わらず父親のような複雑そうな表情を浮かべ私を見ていて、複雑そうな表情をそのまま鏡に映したように表すと本人が気付いたようにいつもどおりにニッコリと赤い目を歪める。いつも鳥だって今主張したなあの人。別にそんな表情なんてしてないんだからねって顔したなアイツ

あれ?ツンデレ?



「 もちろん、必要な資材や資金、人材をこちらで提供するよう掛け合ってみますが 」

「 それなら、ここで働かせてもらえない?私も、教え子達も元々はギルドに所属していたの 」

「 それは、船長が喜ぶでしょう。では、今後ともよろしくお願いします 」



まさか、ジェイドがツンデレなわけがない。悪態をつくのがあの人の出来る本当の優しさであって心配性で悪い人ではないのだと知っているからこそ私はあの赤い目を怖がる事があっても嫌いになれないのだと思った瞬間にツンデレ理論が破壊しました。ツンデレはティアだティア



「 浅葱 」

「 …何だ 」

「 船酔いなんでしょう?早く寝たほうがいいですよ。この部屋に獣がいるようですから 」

「 ケダモノ、だなんて酷いと思わない浅葱ちゃ、 」

「 ミスティックケージ!! 」

「 あぶねえな! 」

「 …寝るか 」



無意識かのうちに早くこの場所から立ち去らなきゃ、と思ってしまう私。ワールドギャップはとんでもない破壊力で私に植え付けてくれたのだ『この世界にいていいの?』という疑問を。それは、そのまま心臓に突き刺さったようで

ほんの少し泣きそうな気持ちになった



( 何一つ力になれない私 )
( この場所にいていいか、なんて )
( 考えれば考えるほど枕が冷たくなる )

10/0918.




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