「 エール、何してるの? 」

「 お姉ちゃん 」



船の船頭に座ってエールはぼんやりと何かを見ていた。私はその先を見てみると白いカモメが青いパレットのなかでふわふわと泳いでいるのをひたすらにじいっと見守っている。私をお姉ちゃんと呼んでからすぐにカモメに視線を移したエールをみながら近くに座るとエールが小さく笑う



「 カモメ、見てるんだね 」

「 カモメは、ふわふわする、から 」

「 飛んでるからふわふわしてるんだよ 」

「 エールも、ふわふわしてた 」



確かにそういった言葉に私がエールのほうをゆっくりと見た。目の前は海だけで、進む船が浅い波立ててその青の中にエールが落ちてしまうんじゃないかと思うほどのその状況に心中渦巻くのは寂しいから、なんだろう?



「 何処かわからない 」

「 うん 」

「 でも、くるくるふわふわしてた 」

「 うん 」

「 あったかかった 」



くすぐったそうに嬉しそうに話すのは世界樹の中の話。本当は微笑ましい気持ちで聞いてあげたいのに私の心の中で邪悪な気持ちが渦巻いていて『寂しい』とか『よくわからない』だなんて思っているなんて、幸せそうなエールには『帰りたい』と思う私には言えない言葉。まさに宙ぶらりんな私にゆっくりと息を吐いた



「 お姉ちゃんが、抱きしめてくれるくらいにあったかい 」



え?と口元が確かに形を作って声を出そうって思ったのにそれはでなくて。ただ私だけに向けられたその表情に複雑な心境が一瞬にして消されてしまう。



「 だいすき 」



にっこり。そんな効果音がついてきそうな表情でどうして笑ってくれるんだろう。一瞬にして「ごめんね」と呟いた私にエールが首をかしげるけれどそんな事は気にせずに小さく笑う私はエールを抱きしめる



「 お姉ちゃん、抱きしめてくれるの好き 」

「 うん 」

「 やさしい、すき 」

「 うん 」

「 ずっと、いっしょ 」

「 そうだね 」



嘘をついてごめんね。ずっと一緒には居られないのもわかっていながら嘘をつく私を許してね、エール。あなたはずっと此処にいられるけれど、私はずっと此処にはいられないから。すがりつくような子供の姿にゆっくりと下唇を噛んだ、



「 あら、浅葱。此処にいたのね 」

「 ティア? 」



エールがちらっとティアを見て首をかしげ、その先にいたガイに不満そうに息を履くのが聞こえた。あの事件以来エールはガイが苦手らしくたまに不満げに頬を膨らませる姿はたびたび見るけれども、ティアとガイってことは何かあったっけ?



「 何かあったのか? 」

「 こんな事を頼むのは申し訳ないのだけど。ナパージュ村にいってくる間にルークを見ててもらえるかしら 」

「 うん。構わないよ?子供が今更一人や二人増えたところで問題はないからね 」

「 助かるわ。ありがとう、浅葱 」

「 おー、二人は怪我しないようにな 」



片手でエールがガイへと喧嘩を売らないように弾むように頭を撫でる。さっきから「むー」と可愛らしい唸りが聞こえてるけれどたぶん頭を撫でている間にガイとティアが仕事に向かってくれればこの小さな番犬がガイに吠え出すこともないとは思う。そろそろ仲良くしてくれないと困るよお二人さん!



「 いってらっしゃい 」

「 …うう、 」

「 エールはやらないの? 」

「 や、やる 」



おずおずと私の手を握ったまま、エールがやっと唸りをやめる



「 ティアいってらっしゃい! 」

「 ガイにはないのか 」

「 知らない! 」

「 ちょ…おま、ガイも気をつけていけよ… 」

「 ああ、ありがとう 」

「 お姉ちゃん!? 」



ティアは微笑んでいたけれど、ガイが苦笑していた事にエールもティアも気付いて欲しい。何よりもなんでガイと話しただけでエールに怒られるんだろうか。なんだか子供の独占欲を主に浴びているような気持ちで怒るに怒れないんだけれども



「 そうやって、差別したら駄目でしょ? 」

「 ……やだ 」

「 だめだって、 」

「 やだ! 」

「 そんな事言うと、くすぐるぞ! 」



わー!と甲板を走り始めるエールに私の足が動く。こんな楽しい日々が続いても、帰る日が、そのいつかがあると知りながらその背中に手を伸ばした



( シーツの壁を使って追いかけっこ )
( 本を読んでいたカノンノも参加して )
( 日向の下で駆け回る )

10/0905.




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