陰険鬼畜眼鏡に渡された大量の書類を親善大使と威張らないルークに渡しにいくことになった。ちょっとだけ船の中のことをわかったように調子に乗って鼻歌を歌うんじゃなかった。おかげで私が通っているのを気付かれ、この分厚い書物をルークに届ける事になったのだ。書類の表紙を見たところで読めない字を見てため息一つ。字の勉強をしろと遠まわしに言われているようでちょっとグサッてきてます


さて、扉をどうやって開けようか。両手は開いてない。声をかけるのも面倒だ。だけれど無理やり蹴り破るのは多分私の足が折れる。だとしたら、一度書類を床に置いて汚れたら悲劇だ



「 浅葱?どうしたんだよ 」

「 おお、ルークいいところに。君へジェイドからのプレゼントだ 」

「 プレゼントって響きだけは聞こえがいいよな 」

「 うん。人間もうわべだけが綺麗だから 」



はい、と渡している最中にルークが「え?」と手をゆるめ真っ直ぐに落下する書類の束を掴み取る。あっぶな。一度も紙の端を折らないようにぶつけないようにとおもって持ってきた書類の束をどうしてこうも簡単に落とそうとするんだ、まったく…



「 ルーク? 」

「 あ、ああ、ご、ごめ 」

「 どうした 」

「 ジェイドも、前に同じ事いってたんだよ。そうしたら、浅葱も、そうなのか、と思って 」

「 そのうわべの先を知りたいと思うのがきっと恋なんだとは思うけどね。人間うわべ上の綺麗な関係だけでいたいものさ 」



例えばティアのあのクールの先には一体何があるんだろうとか思ったらもうドツボにはまったようなものなんだ。とは言わないがぼんやりと「そうかな」とルークが呟く。私はルークの頭を撫でるとくすぐったそうな表情が見えてふいに微笑みそうになると扉が開いた



「 ルーク様?一体なに、を… 」

「 ああ、アニス。浅葱が書類を届けにきてくれたんだよ 」

「 そ、そうなんですかぁ! 」



戸惑うようににっこりと笑ったアニスにルークが笑い微笑みそうになっていた私の表情はまるですり替わったように平然と口元に貼り付けたような笑みを浮かべているんだろう。必要以上は関わらない方がいい気がして、軽く手を上げて背を向けると小さな手が私の手をつかんでいた



「 えっと、浅葱だよね?ちょっと話、しようよ 」

「 …構わない、けど 」

「 それじゃあ、ルーク様!失礼しますね 」



此処では話せないことなのかそのまま引っ張っていって空き部屋へと入った私達。アニスの顔にはなんだか焦るような困るような表情が入り混じっていて大きな目が強気な光を放つ。それを見ながら一体なんだ?と思っては見るが理由という理由が浮かばない



「 あんたって 」

「 なに? 」

「 もしかして、ルーク様の事好きなの? 」

「 別にこれといった感情はないけど、弟みたいだなーとは… 」

「 そ、そっか… 」



甘やかしたいな、とは思うけれどたぶんそれをやったらジェイドに怒られるんだろうと考えるだけでアニスへと視線を戻せば安心したように息を吐く姿。



「 …あー、焦ったじゃん。 」

「 何?ルーク狙ってるの? 」

「 というか、玉の輿に乗りたいんだけどねー… 」



幸せより金というような金があれば幸せだとも言うのか。ぼんやりと考えている少女をみてそんな事を夢見た日もあったな、と緩みそうになる口元。アニスは「ただティアに気がありそうだしなあ」と呟いている姿を見る限り恋する乙女とはかけ離れていそうだが



「 あ、そうそう、ついでに援護射撃もよろしくvじゃ、約束だからね! 」

「 それなりにはするけど、落とすなら本人の武器を磨かないと――」

「 アニス!狩人、なった! 」

「 …ま、まさか。アニス…エールにも言ったんじゃ 」

「 言ったけど、こうなるって思わな、 」



新品ピッカピカの弓を構えたエールにアニスの口元が引きつった。多分、この子の頭の計算では違うイメージだったんだろう。エールはこの空気に気付くことなく「すごい?」と笑みを浮かべ、アニスはただポカンと口をあけエールを見ていた。



「 エール 」

「 なに? 」

「 私は、エールが狩人になる前の職業の方が好きだなあ 」

「 …、援護射撃 」

「 実はいらなくなったの。だからね、弓は売っておいで 」



ただ優しい声色で「ね?」と言うとエールが頷いて部屋を出て行くのを見てからアニスの方を振り向くと不安げな表情が一瞬見えて「アニス?」と聞くとすぐに表情を変えて首を横に振った。



「 なんか、浅葱ってさ 」

「 ん? 」

「 やっぱいいや 」

「 そうか。何か言いたいことあったら言えよ 」



寂しいって口に出せない子供のような表情に私はアニスに向かって微笑んだ。意味があるかはわからないけれど今にも泣きそうなアニスを抱きしめてもきっとこの子には伝わらないことと求めていないことがありそうだから。幼子を優しく見守るような気持ちで軽く頭を撫でてから

その部屋から立ち去る私が彼女の表情を見ることはなかった



( 彼女が欲しいものはわかってる )
( それは、私には出来ないこと )
( 彼女の親でしかできないことだから、静かに立ち去るの )

10/0901.




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