「 と、とれた… 」
やっと絡まっていた紐を取るころには、皆が大分進んでしまっていたようでぼんやりとしか見えない視界。色が滲んでしまって上手く見えないその先を、目を細めても綺麗に見えるわけもなく、刀についている紐を手に巻きつけてから立ち上がる。もしかしたら、薬を飲めば上手く見えるのかもしれない。なんて淡い期待だけが湧き上がる心と真逆に、薄暗い雰囲気の方へと、体がふらりと引き寄せられる
「 ここで、父と母が殺された 」私の中にいる『私』が引き寄せられてしまったように。違和感のない、まるでウィンドーショッピングを楽しむ足取りで進む先に――彼女のか細い声が聞こえた
「 子供だった私は、家を継ぐこともままならずヴァレンス家は取り潰された 」うす光が差すその場所で、許しを請うような体勢とは全く別で挫折をしてしまったとばかりに手と膝や足をつけて弱弱しい声で懺悔のような呟きだけがその場所に響く。まわりの水面が彼女の声を跳ね返し、私の耳へ頭へと続いて、つづいて、繰り返して、
「
あの時の事は忘れない… 」
震える声が、おかしなほど耳に張り付いた
「 何も出来ずにただ殺されていく父と母を。震えながら見ているしかなかった非力な自分を… 」
2重に聞こえそうなほどの『音』が。うっすらと彼女の周りを包むように現れた灰のような、煙幕のような柔らかな灰色がどんどん黒ずんでいく。じわじわと取り囲むように、彼女自身を包囲するように。けして、保守の囲いではないナニかが
「 ここで、ヴァレンス家の復興を誓った。でも、あそこに…あの船にいると…私のすべき事を忘れてしまう 」
じんわりと後を残して離れていく
定まらない浮遊するような煙
「 私は騎士なのだ。騎士であり続けなければならない 」
自分自身に言い聞かせるようなその声とは別に、少しはなれた所で形をつくる黒。
『 騎士であろうと努めているのは、自分の弱さを覆う為だろう? 』
「 弱さ…だって? 」
その黒は、そっくりな彼女を作り上げていた。寸分狂わない彼女自身であり、色味の少ない形をまねた人形のようなその姿のなかで真っ赤な目だけがおかしいと私に思わせる。『普通じゃない』とあれは『異常だ』と、頭の奥で赤い警報がぐるぐると色をつけたりけしたりを繰り返す
『 忘れたのか? 』
皮肉を顔で表したような口角の上がり方。散らばっていた黒いモヤさえももう一人の『クロエ』の傍にゆらめいてたどり着くと、ピタリと一部へと変わってしまう。その中で違う一色。赤だけがギョロリ、とクロエを見下ろしていた
おかしなほど、楽しげに響く声は( なぜか泣いているように聞こえた )
( 誰が、なのかはたった一人だけ )
( 二人で一つの、同じ感情のような気がして )
( 表情にないその声だけが、少し震えていた )
11/0624.
→