「 俺の記憶が間違っていなければあいつはここに来ているはずなんだが… 」



そう呟いた声に私達は足を止めた。今居る場所はサンゴの森。あの不安定な岩場だったのだけれども流石にそんな事を言うような気分になれず、一緒に来てくれたニアタの隣に立ってカノンノとセネル、そしてエールの背中を眺めた。デコボコな感じの背丈を見て小さく微笑んでしまう私の隣でニアタが穏やかに笑った気がした



「 セネルはクロエのこと、よくわかってるんだね 」

「 い、いや…、そんな事はない。俺がもっと気をつけてやってれば、こんな事にはならなかったんじゃないかって 」

「 気をつけて、れば? 」



ぱちぱち、と大きな目を瞬きさせてセネルを見つめたエールに困ったようにセネルが苦笑のようなものをする。失笑寸前のそれは、あまりにも悲しげにうつるからエールの顔が泣きそうなものに変わっていく。それを見たカノンノが、一歩前に踏み出して



「 …ここにいるといいね 」



願うような声だけがその小さな口からこぼれた。それは確かな本心で。願うなんて大げさだって言うかもしれないけれど、表現を間違えてないってカノンノの目を見たら確信だけがうずく。彼女の綺麗な幼い少女のような透明さが、揺らいでいたから。少し濁って見えそうなほど悲しそうに揺らめいたその目線が奥へ、奥へとサンゴの森のどこかを見つめている



「 そうだな。クロエ…、無事だといいんだが… 」



セネルの消え入りそうな声。
不安だけが漂うようなその音にカノンノが、不安げにたぐりよせた小さなエールの手



「 そういえば、クロエが言ってた。いつまでもアドリビトムにはいられないって 」

「 え? 」

「 アドリビトムは好きだけどそれじゃ駄目なんだって… 」

「 なんで、駄目なの? 」



小さな声が突き刺すように響く。なんで、とただ正直な疑問にカノンノが小さく肩を揺らす。セネルはばつが悪そうに視線をそらした。それでもわかることは、クロエがこの場所に居にくいという理由を知っている事と、私が不安げに揺らめいたエールの目を見返すのに少しだけ抵抗しているという事だけ



「 どうして駄目で、クロエはアドリビトムにいられないの? 」



その声だけが響き渡る。私は、あの純粋な瞳の先の抵抗に目を向けて、戸惑う二人の背中を見てからゆっくりと息を吸い込む。少しだけ冷たい空気が私の肺をジワジワと広がっていく



「 クロエがそう思っているだけで、実際はそうでもないのかもしれないねえ 」

「 ほんとう? 」

「 本当かどうかは私は、彼女じゃないからわからないけれど、 」

「 でも、居てもいいんだよね?クロエはアドリビトムにいても、いいんだって、そういうことなんだよね? 」



不安げに揺れ動く妹二人の視線。その先で、セネルがまた俯いていた。自分を責めているんだろうか。いや、多分責めているんだろうけれど。今は、そんな時間でもないだろうに。悔しいから、足元にある小石でもセネルに向かって蹴っ飛ばしてやろうか…!



「 それを、クロエに確かめにいこう 」

「 え? 」

「 私がここで頷いたってそれはクロエの意志じゃない。それに、いつだってエールが正しいと思ったことはちゃんと本人に口に出してきたでしょう? 」

「 うん、 」

「 だから、それをクロエにも言ってみようか 」



にいっと頬を吊り上げて、二人の間を通り過ぎてセネルの横を通り過ぎようとした。ただ、ほんの少し反省をしている少年をそのままにしておくのも性格にあわないから、鞘を掴んでから腕を伸ばす。小突くように、掠るように彼の頬へその先を伸ばして



「 ほら、いくぞ 」




( …浅葱、やはり君は )
( うん?なに、ニアタ )
( ……いや、 )
( 気になるって。怒らないから言ってみな? )
( …変わった人間だとおもっただけだよ )

(( 変わった?これは、褒められてるのか? ))
(( 救世主よりも救世主らしい、と言った方が良かったんだろうか ))

11/0622.




- ナノ -